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【No.21】経営者の論理的思考と直感的思考について~直感的思考力を高めるために~

NIT MOT Letter

No.21 / 小田 恭市(専任教授)

 

経営者の論理的思考と直感的思考について~直感的思考力を高めるために~

 

<経営者に直感的思考が必要な理由>

 中小企業経営者と議論していると、以下の点が課題として浮き彫りになってきます。第一に、企業を取り巻く市場や技術などの環境変化を前提にした論理的思考だけでは、競合企業と似たような行動様式となり企業間の差異化・差別化に限界が感じられる。第二に、複雑な多くの要因が絡み合う環境条件の中では、それら要因の取捨選択や要因相互のウエイト付けなどを論理的に決め付けることが難しい場面に出会うことがある。第三に、考えられる幾つかの今後の行動様式の中から実現性や効用性を踏まえて、企業の行動様式として一つを論理的に選択することに悩む場面がある。

経営者は、こうした課題や場面に迅速に対処するために論理的思考だけでは限界を感じ、直感的思考に頼らざる得ない状況に陥っているものと推察されます。直感的思考が働くようになれば、俗に言う「経営者の勘が冴える」、「経営者の勘が働く」となり、経営者の成長を見ることができるのではないでしょうか?

私は、これまで経営者の直感的思考力を高めるにはどうすればよいかモヤモヤ感を持っていました。

 

<アマ棋士がプロ棋士になるための「勉強」>

 そうした思いを持っているときに、少年プロ棋士である藤井聡太四段の連勝記録が大きな話題となってマスコミを賑わかせていました。なぜ、中学生である藤井さんが社会人のプロ棋士と互角の勝負ができるのかについて興味が湧いてきました。藤井さんが若くしてプロ棋士になれた秘訣を探っている中で、アマ棋士とプロ棋士に格段の力の差があることもわかってきました。アマ棋士とプロ棋士における思考構造の違いを科学的に研究したものはないか探索していたところ、独立行政法人理化学研究所と富士通株式会社・株式会社富士通研究所が社団法人日本将棋連盟の協力のもと、共同研究プロジェクトとして行った「将棋における脳内活動の探索研究」の研究論文を手に入れることが出来ました。大変に興味深い内容でした。

 この研究成果のポイントは以下のようです。①棋士は、長年にわたり将棋に特化した思考の修練を重ねており、指し手の予測、選択、長考とそのなかでの一瞬の閃きなどに見られる独特の思考の過程には、脳の思考の仕組みを説く重要な鍵が隠されていること。②プロ棋士の脳の瞬時の活動として、盤面の駒組を読む時および一手を選択する時の脳の活動を測定することで、アマチュアとは異なる脳の思考回路の存在が示されたこと。③プロ棋士の一手の選択には大脳基底核の一部である尾状核頭部の活動が現れたこと。④行動選択を担うとされる同部位の活動は習慣的行動の言葉に出来ない記憶を蓄えることで知られ、棋士が無意識に手を選択する能力への修練の効果を示唆するものであること、などです。要するに、アマ棋士の頭脳の尾状核頭部を活動させられるようになれば、プロ棋士として直感的思考が出来る新たな思考回路を手に入れることになるではないかということです。

アマ棋士はプロ棋士になるための主な「勉強」方法は、プロ棋士の対戦や詰め将棋の棋譜を頭にインプットするとともに、自分であったらどのように手を打つのかを考えることを繰り返すことだそうです。藤井聡太さんも幼年期から棋譜を素材に「勉強」したそうです。こうした繰り返しを行うことによって、プロ棋士として論理的思考だけでなく直感的思考も出来るような新たな思考回路が形成されると言えます。もちろん、その程度は才能によって個人差はあるものと推察できます。

 

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<経営者が直感的思考力をためるための「勉強」>

この棋譜を素材にした「勉強」は、経営者における行動様式の意思決定の試行錯誤のプロセスに酷似していることに気づきました。すなわち、棋譜は経営者がいろんなビジネスに挑戦して成功する、失敗するなどの経験であり、その経験の中で成功、失敗の要因を教訓として学ぶ中から直感的思考を担う新たな思考回路が形成されるという仮説です。単に成功、失敗の要因を積み重ねる帰納法的アプローチだけでなく、その経験から仮説的に何かを学び取る演繹法的アプローチも併せて行うところに特徴があります。ただ、中小企業経営者がいろんなビジネスに挑戦できるチャンスは資金的に、時間的に多くないのが現実だろうと思います。しかも、失敗は出来るだけ避けるようにすることも当然ですので、多くの経験を積み重ねることは難しいと考えられます。

そうした中で、中小企業経営者にとって実践的経営経験の他に棋譜にあたるものとしては、ケーススタディが挙げられるのではないでしょうか?多くの経営者が好む代表的な書物として、徳川家康、豊臣秀吉などの生涯を描いた歴史書があります。経営者は、そうした歴史書の中で主人公がいろんな局面でどのような対応をしたかを学ぶ帰納法的アプローチとともに、自分であったらどのような対応をしたかを仮説的に考える演繹法的アプローチでケーススタディして楽しんでいるものと推察できます。

さらに、経営者がもっと効率的・効果的に、体系的に「勉強」できる場として、社会人大学のビジネススクールで行われているビジネスケーススタディが挙げられると思います。社会人大学で多くのビジネスのケーススタディを学ぶことによって、経営者特有の直感的思考を創造する新たな思考回路を形成させることが期待出来ます。この思考回路は経営者の「勘」を働かせる直感的思考力を高めることに繋がるのではないでしょうか?

 

<日本工大MOTで学ぶ意味合い>

最後に、経営者が「真の経営者」へと成長するためには、下図で示すように経営マネジメントに関する基礎知識と論理的思考力を高めるだけでなく、多くのビジネスケーススタディを学び直感的思考ができるように脳を鍛えることが重要ではないかと考えます。本大学院MOTでは、経営者などを招いたゲストスピーカーによる講義のある科目、中小企業技術経営に関するケーススタディを積み重ねるケーススタディ科目などがカリキュラムに盛り込まれており、直感的思考を高める学びの場としてビジネス界に貢献できるものと確信しております。

なお、この直感的思考力を高めることは、経営者だけでなく、幹部社員、技術者などの職種に共通して重要視されるものでもあると思います。

 

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小田 恭市(専任教授)

 

 

次号(No.22)は 三宅 将之 教授 が執筆予定です。

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