MOT 働きながら技術経営が学べる1年制大学院 日本工大MOT

【No.39】小さな進化

NIT MOT Letter

No.39 / 五十嵐 博一(専任教授) 


かれこれ1年ほどパーソナル・トレーニング・ジムに通っています。きっかけはメタボ診断でした。正確に言うと、数年前の健康診断でメタボ対策の指導(特定保健指導というもの)を受け、1年ほどかけて理想体重まで落とすダイエットに成功したものの、その後の生活の乱れ(主に出張先での飲食)でリバウンドし始めてしまったので、ダイエットと体力強化のためにジム通いを始めたという話です。

 

メタボな芸能人たちが短期間で引き締まった肉体を取り戻した姿を宣伝する、あのセンセーショナルなテレビCMに多大な影響を受けたことは言うまでもありません。ただし、私は結果にコミットするあの有名なジムではなく、あのジムと似たサービスを提供する低価格なジムをネットで見つけて、ジムを見学して無料カウンセリングを受けました。

無料カウンセリングの際にはジムのトレーナーが、あのジムよりも低価格に設定できる理由を説明してくれました。「ウチは派手なテレビCMはやっていませんし、店舗の内装もあちらよりも質素ですから」と。

私は“あちらのジム”を見たことはなかったのですが、実は私の妻がかつて“あちら”に通っていたことがあり、妻に話を聞いてみると、確かに“あちら”の内装は豪華らしく、私が通うジムが質素であることは間違いないようです。

 

“あちら”は連結ベースで資本金192億円、従業員数7,600人超の上場企業、“こちら”は資本金500万円、従業員数700人ほどの中小企業です。(中小企業基本法の定義では、サービス業では資本金5000万円以下または従業員100人以下が中小企業と定義されています。)

 

私が通うジムは、競争地位別戦略でいうところの典型的なフォロワー企業なのでした。

 

フォロワー企業の戦略はリーダーの模倣、追随です。ジムではあちらと同様に、オリジナルのプロテインやサプリを販売していますし、あちらが英会話教室を始めれば、こちらも英会話教室を始めます。あえてリーダーに挑戦せず、セオリー通りに手堅い路線を守っています。

 しかし、1年間に渡って毎週のように通っていると、ジムの中にちょこちょこと小さな変化を発見します。たとえば床に出しっぱなしだったトレーニング用具が、あるときからメタルラックに置かれるようになったり、トレーニング・ルームに小さな扇風機が追加されたり、使用後の靴下を入れるカゴが設置されたり、という具合です。おそらく、顧客の声やトレーナーの声を聞いた店長が社長や幹部に進言して、小さな改善を実行しているものと思われます。

 トレーニング用具をメタルラックに置くようにしたのは、いわゆる5Sで言うところの整理整頓ですし、扇風機の追加は顧客の快適性や健康への配慮です。靴下用のカゴの設置は、おそらく衛生面を考慮してのことでしょう。どれもとても地味ですが小さな進化です。それが継続していることが見て取れます。

 

このジムのように小さな進化が継続する企業は、概して環境変化への対応も柔軟で、小さくても生き残る“しぶとい企業”が多いと私は感じています。カラダの大きな者や力の強い者が生き残るのではありません。環境の変化に対応するために自分を進化させることができた者が生き残るのです。

 

最近、このジムのトレーニング・ルームの天井に監視カメラが取り付けられました。これにはそれなりに(おそらく1つの店舗で数百万単位の)費用がかかっていると思います。これは防犯目的だけでなく、諸々のトラブルを未然に防ぐ効果も期待してのことでしょう。個室でのパーソナル・トレーニングというサービスの性質上、トレーニング中に何らかのトラブルが生じた場合、あとから映像を確認できるというのはとても有効です。しかしながら、各店舗に数百万円という設備投資額は、中小企業にとっては小さな金額ではありません。

トレーニング・ジムというサービスを商品の三層構造で捉えるなら、監視カメラの設置は中核の便益には無関係で、一番外側の付随的サービスの層に含まれるたぐいのものでしょう。必須の設備ではありませんから、経営者の考え方次第では、あと回しにすることもできたはずです。

それでも監視カメラは設置されました。私はこの設備投資の判断に経営センスの良さを感じてしまい、今まで以上にこのジムへのロイヤルティを高めてしまうのでした。

 

そしてこの調子でジムに通い続けたなら、私の肉体にも小さな進化が継続し、数年後には今とは見違えるほどのムキムキのマッチョになっているかもしれません。乞うご期待!

 

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五十嵐 博一(専任教授)

 

次号(No.40)は 中村 明教授 が執筆予定です。

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