New Business by Utilizing External Resources
周知のとおり、我が国中小企業の多くは大手企業のQCDニーズに対応するだけでなく、自律的経営を目指した高付加価値ビジネスへの展開が課題となっている。かかる高付加価値ビジネスでは、中小企業の強みを活かして大手企業とのは競合しないニッチ市場分野でのトップシェアへの展開が期待されている。しかし、中小企業のヒト、モノ、カネ、ジョウホウ、ブランドなどの経営資源は大手企業に比べて大きく劣っており、新事業創造などにおいて社外の経営資源を如何に活用するかといった構造的な課題を持っている。
かかる課題を解決するために、本科目は、従来からの取引先(顧客)と技術(製品)をベースに、①新事業の創造を如何に進めるか、②その手段の一つとして社外の経営資源を如何に活用するか、といった課題に的確に応えられる技術経営人材の育成を目指して位置付けられている。
本科目は、新事業の創造とともに社外の経営資源の活用等をマネジメントできる人材を育成することを目的としている。そのため、新事業の創造においてはアンゾフモデル(改良版)をベースに新たな顧客創造の方向性とともに、その新事業の創造を具体化するための外部の経営資源と取り込むためのネットワーク形成のあり方などを検討する。とくに、本科目は中小企業を前提としており、前者においてはニーズ主導型による新事業創造、後者においては社外の中小企業、大学等とのネットワーク形成に留意した検討を行うこととしている。
本科目における講義の問題意識、検討のポイントは以下の5点に集約される。
(1)新事業創造の必要性について(なぜ、今、新事業なのか?)
(2)新事業創造におけるニーズ主導、シーズ主導について
(3)中小企業だからこそ必要な社外経営資源を活用するネットワーク形成戦略について
(4)中小企業だからこそ必要な垂直的水平連携について
(5)ネットワーク組織を母体にしたイノベーションについて
受講生は本科目を受講することによって、以下の3点に関する対応力を獲得できるようになることを到達目標とする。
(1)アンゾフモデル(改良版)を活用したニーズ主導型の新事業創造を検討できる力を獲得できる。
(2)新事業を実現するための社外の経営資源をうまく活用できる多様なネットワーク形成ノウハウを獲得できる。
(3)産学官民連携、中小企業間連携(異技術、異業種の連携)などプロジェクトの企画・運営が出来るマネジメント力を獲得できる。
本科目は、以下の院生等が受講されることをお薦めします。
(1)新事業を検討される経営者及び後継者、幹部社員、起業者、コンサルタントなどに該当する院生
(2)社外の多様な機関・組織、人材等との連携によるオープンイノベーションに興味を持たれている院生
(3)ネットワークを活用して新たなビジネスを立ちあげることを検討されている院生
中小企業が抱える課題に関する既往文献、中小企業白書(アンケート調査による実態等)を参考に、中小企業における新事業創造の必要性や実現化における課題等を検討しておく。
●中小企業における新事業創造の必要性と取り組み
中小企業を取り巻くビジネス環境変化を踏まえて、従来事業の高度化(深堀)だけでなく新たな事業の立上げの必要性について検討する。また、中小企業における新事業立ち上げで失敗している事例を対象に、失敗の理由を体系的に整理して、本質的な問題の所在を考察する。
また、新事業の創造における「成功」の意味合いを確認するととも、「失敗」と判断して撤退をするための要件とその必要性等について検討しておく。
新事業創造の必要性及び取り組みの失敗要因等を復習するとともに、新事業を検討するための手法について予習しておく。
●新事業の検討する手法(基本フレーム)
新事業の創造において最も有効な手法にアンゾフの技術・市場のマトリックスがある。本授業では、このマトリックスを改良したアンゾフモデル(改良版)、多角化モデルをベースに新事業の創造の検討を進める。この他に、成長曲線からみた新事業のあり方、新業態開発からみた新事業のあり方、新5Sから見た新事業のあり方など、新事業の検討において役立つ手法の紹介、手法適用の有効性等の検討を行う。
新事業創造に関する手法の適用範囲を復習するとともに、新事業の取り組みにおけるチェックポイントについて予習しておく。
●新事業創造に関わるチェックポイント
新事業の取り組みの妥当性について以下のチェックポイントを企業事例等を交えながら検討する。
(1)経営理念との整合性
(2)社内における新事業立ちあげの必要性の理解
(3)社内の資源(シーズ、ニーズ)の発掘と活用方途
(4)従来事業と新事業との組合せ(ベストミックス)について
新事業のチェックポイントについて事例を踏まえつつ復習するとともに、自社等を対象に新事業検討のシミレーションを行っておく。
●新事業創造の演習(グループ演習)
新事業の手法及びチェックポイントを踏まて、新事業創造のあり方を特定事業をベースにグループ演習を行い、新事業創造における課題点が明確になるように検討する。グループ代表者がグループワークの成果を取りまとめるとともに、プレゼンし各グループ間で検討を深める。なお、グループ討議の課題テーマは当日に説明する。
新事業の演習に関わる「振り返り」を行い復習するとともに、新事業におけるアンゾフモデルの検討において課題となるニーズ主導、シーズ主導の優位点、課題点について予習しておく。
●新事業創造におけるニーズ主導とシーズ主導
中小企業の「強み」弱み」を踏まえ、中小企業における新事業創造においてはニーズ主導、シーズ主導の何れかが妥当(適性)であるかについて検討する。とくに、大手企業と中小企業の違いを踏まえて2つのアプローチの妥当性を検討する。
●新事業創造における社外の組織・機関、人材とのネットワーク形成の必要性
中小企業における新事業創造を実現するためには、ニーズ主導やシーズ主導にしても社外の組織・機関、人材等の経営資源を活用することが重要となってくる。そこで、社外経営資源とのネットワークの形成においてどのような課題が存在するかについて検討を進める。
新事業創造においてネットワーク形成の重要性を復習するとともに、ネットワークに関する基礎知識を予習しておく。
●ネットワークにおける連携形態
ネットワークにおける連携形態として①垂直的連携と水平的連携、②強結合と弱結合について概念を学ぶとともに、それらに関わる具体的事例を踏まえながらビジネス界でどのような意味を持っているかを検討する。また、これらの連携形態を踏まえながら、今後新たな連携として重要視される垂直的水平連携、新生産システムなどについて学ぶ。
コロナ禍の中でオンライン授業、オンラインビジネスなどが行われてきたが、再度、オンラインによるコミュニケーションでは得ることが難しいこととは何かを事前に検討しておく。すなわち、対面の必要性は何処にあるのかを考察しておく。復習するとともに、それらネットワークを活用したビジネスについて予習しておく。
●F2F(対面)とWeb(オンライン)
新事業創造においては人と人との繋がりが極めて重要であることを認識するとともに、F2FとWebの適切な組合せを如何にうまく進めるかが大きな課題となることを学ぶ。とくに、F2F(対面)による信頼関係の醸成、価値観の共有などがネットワークによる新事業創造の鍵になることを理解する。
ビジネスにおける契約的繋がり(関係性)を代表する強結合、心理的繋がり(関係性)を代表する弱結合を身の回りの中から該当するものを例示的に検討しておく
●弱結合と強結合
ネットワークによる新事業創造における弱結合の重要性を強結合と比較しながら検討するとともに、弱結合が新事業創造にどのように貢献するかを討議する。また、弱結合におけるF2F(対面)の必要性について確認しておく。
有
全体へのフィードバック
作成した課題レポートは、第9回、第10回の授業でプレゼンを行うとともに受講者間で討議し情報共有を図る。
弱結合はどのようにして生まれるかについて身近な実例を踏まえ、弱結合が生まれるメカニズムを仮説的に検討しておく。
●弱結合が生まれるメカニズム
弱結合が生まれる要因を主体(主体条件)と主体が関わる環境(客体条件)の2つの側面から明らかにするとともに、その両者がどのように関わるのか因果関係について明らかにする。こうした弱結合が生まれるメカニズムを踏まえ、弱結合が生まれやすい地域における新事業創造の状況について検討する。
「日本のもの造り哲学」(藤本隆宏)におけるインテグラルとモジュラーの概念を理解するとともに、その概念がマッチするような身近な産業(企業)の実例をもとにイメージの具体化を図っておく。
●水平連携と垂直連携、垂直的水平連携
組立産業における工程、部品との関係性から水平連携と水平連携に分けてモノづくり形態を理解するとともに、インテグラルとモジュラーとを比較検討する。その検討を踏まえ、中小企業の強みを活かし弱みを補う「垂直的水平連携」の新たな概念を理解する。
垂直的水平連携によって中小企業が獲得するメリットを理解するとともに、垂直的水平連携を実現するために中小企業はどのような努力をすべきかを事前に検討しておく。
●垂直的水平連携を実現するための方策
中小企業が垂直的水平連携を実現するための方策について先進事例を踏まえ検討する。その方策を進めやすくするために行政、産業・経済団体が行うべき施策について実例を踏まえて理解を深める。本講座では、石川県金沢市周辺地域を対象にケーススタディを行う。
中小企業が新事業創造などを図るために外部資源を活用する多様な連携が生まれている。身近な実例としてどのような連携が見られているかを検討しておく。
●中小企業における多様な連携
中小企業の多様な連携として、中小企業間の連携(同業種連携/異業種連携/異産業連携)、産学官民金の連携、共同受注/共同開発/共同生産、などが見られる。これらの多様な連携を実現するための方策について検討する。
12回までの授業で得たネットワークを活用した新事業創造に関する知見を踏まえ、演習企業(ゲストスピーカー)に関する新事業の展開に関する情報収集、仮説設定を事前に行っておく。
●演習(スターエンジニアリング㈱を予定)
演習企業としてスターエンジニアリング㈱の創業時のモーター巻き線事業から新事業(生ゴミ処理機械、非接触型ICチップ、バイオトイレ)を取り組んだ実態について説明頂くとともに、新事業に取り組んだ背景、新事業テーマの設定、新事業実現における課題と対応などについて受講者からの質問をベースに討議を深める。
ゲストスピーカーの講義等を踏まえ、グループとして演習企業をどのようにまとめるかについて事前に検討しておく。
●グループ討議
スターエンジニアリング㈱のネットワークを活用した新事業についてグループ討議を踏まえて、グループごとにプレゼンを行う。受講者数によって、グループメンバー及びグループ数は異なるが、グループメンバーは概ね3~4名を予定している。
14回の授業を踏まえて、十分に理解できていないところ、触発されて新たな課題、新たな自分の意見を持つようになったところ、等についてレビューを行う。
●授業の総括
受講者のレビューを踏まえて、授業総括の視点から授業成果を自分のビジネスにどのように役立てられるかについて討議する。
●本科目の授業総括
受講者のレビューを踏まえて、授業総括の視点から授業成果を自分のビジネスにどのように役立てられるかについて討議する。
本科目の総括として以下の3点についてフリーディスカッションを行い理解を深める。
(1)新事業創造の必要性について
(2)新事業創造におけるニーズ主導、シーズ主導について
(3)中小企業だからこそ必要な社外経営資源を活用するネットワーク形成戦略について
(4)中小企業だからこそ必要な垂直的水平連携について
(5)ネットワーク組織を母体にしたイノベーションについて
本科目は論理(抽象)と事例(具象)を織り交ぜながら、受講生の質問、意見を取り入れた双方向的な授業形態を採用している。なお、事例は教員が中小企業へ出向き得た情報がベースとなっている。
各回においてオリジナル資料を配布する。
その都度、配布資料に掲載、紹介する。
課題レポートやグループ討議における内容
60 %
提出する課題レポートやグループ討議などの内容における新規性、斬新性、全体構成などの視点からを評価する。
授業態度やプレゼン内容
40 %
授業態度では、質問や自身の意見(コメント)の内容の適切性を評価する。また、プレゼンではプレゼン資料の理解しやすさ、的確な内容説明等を評価する。
(1)本科目のテキストは市販されている教科書とは異なり、教員が足で稼いだ中小企業事例とそれらを一般化した論理で構成している。
(2)新聞の産業・経済面(とくに、中小企業に関する記事)を事前に目を通して、近年の中小企業における動向、課題などの認識を深めておくこと。
(3)受講生の意見を聞く、討議する時間を多く確保できるように努力します。
受講者が務める会社等の業種のバラツキに応じて若干の授業内容やゲストスピーカーを変更することもある。また、ゲストスピーカー(中小企業経営者)の都合によって講義日時が変更することもある。