今年は、7月に入ってから、連日、30℃を超える猛暑日が続いており、さらに大雨による 土砂災害で死者まで出て、街を歩く人の姿も減っている感じがします。
北半球では、50℃を 超えるところや大洪水をおこすところが出ているとの事で、地球温暖化による気温上昇で、 気象庁の予測では、将来、日本でも夏の40℃越えが常態化するだろうとの事です。
若かりし頃、サウジアラビアに行ったときに、3 月でも 40℃越えは、当たり前という感じで、我々日本人は、40℃前後だと、皮膚感覚で、1℃の違いが判るといって、自慢しあっておりました。
さすがに50℃を超えると、仕事休みとなり、ドアの取手や車のハンドルは、 触ると火傷するから気をつけろと言われたものです。サウジ人は暑いのが当たり前で、日中は外に出ません。出社しても、まずは、お茶を飲みながら、挨拶代わりにお互いの家族の健康状況などを確認しあってから、仕事に取り掛かっていました。工場の現場保守要員は、緊急な指示が来ない限りは、日陰で休んでおり、太陽の動きに合わせて、日陰を移動しており ました。この様な働き方も、生活の知恵なのだろうと思えた次第です。 さすがに我々日本人には、サウジ人のような周りを砂漠に囲まれた生活はないでしょうし、殆ど年中、熱暑ということはないでしょうが、生活環境に合わせた働き方をしたほうが、体を壊さないためにも良いように思えます。働き方改革や自分の時間を充実させるワークライフバランスの実現に注目が集まっていますので、この辺りで、自分の生活の仕方を見なすのも良い機会ではないでしょうか。
1960 年代に始まった高度成長期の頃から、地方から東京へと多くの人々が移動して来ました。それに合わせて、東京郊外の住宅も色々と開発整備されて来ましたが、半世紀が過ぎ、近年そういうところを訪れてみると、あのブームがこれだったのかという感じのところも増えてきています。そこには、高度成長を支えた人々のそれこそ人生が見えてきます。私が新入社員で入った会社の上司は、その郊外にマイホームを買っていました。300 万円で買った家が、オイルショックで3,000 万円になり、ローンは、ボーナス2回で完済したと喜んでいました。同じような急激なインフレが、国債暴落のような突発的な経済危機で、再び、日本にやって来るでしょうか。当時、目先の利いた人は、値上がりした家を担保に借金をして次の家を買い、資産を増やしたものです。それが判れば、早めに借金を増やしておいた方がよさそうですが、1990年のバブル崩壊後に育った世代は、そのような話は、全くぴんと来ないでしょう。
欧米の街を歩く時とアジアの街を歩く時に感じる大きな違いは、人の多さです。アジアの発展は、この人の多さが基盤になっています。中国人に話を聞いたら、10年で給料が10倍になったと言っていました。そういえば、15年くらい前に尋ねた深センの工場の女工さんの給与が、7千円と言っていたのでさもありなんと思った次第です。皆、豊かさを給与の伸びで実感していました。丁度、日本の高度成長期と同じ現象が起こっています。昔、アメリカのラストベルトと呼ばれる中西部のピッツバーグの製鉄所や、デトロイトのくすんだGMの本社ビルや裏にあるさびれて窓が割れた建物を見た時、日本の製造業に駆逐された地域の大変さを見た感じがしました。日本の製造業の将来が同じようにならないと良いがと悲観的になります。豊かさを追いかけた日本が同じように豊かさを追いかける中国やアジアの国々に、アメリカのラストベルトと同じような状況に追い込まれて行きます。
しかし、この様な状況でも、個人の働き方やライフスタイルを見た時は、アメリカのそれと日本は全く違う気がします。アメリカでは、金曜日の午後になると郊外へ向かう高速道路は、渋滞が発生しておりました。午後の仕事を切り上げて、郊外に遊びに行くという発想は、日本人にはあり得ないものです。アメリカの友人が、”俺たちの夏休みは短くてゆっくりできない“と嘆いていたので、私は、まとめて10日も取っていると自慢したら、なんと、彼の夏休みは、1か月で、ヨーロッパの人たちは、2 か月とっているとの事でした。 最近の技術の進歩を見ていると、この様な環境変化の中でも、IT を使った効果的で、快適な仕事や生活の仕方を考えていった方が、より自分に合った働き方や生活が出来るのではないかと感じます。デジタル化やネット化の進展は、様々な形態のライフスタイルに対応できるようになると感じます。そこから、新たなビジネスも発生して来るでしょう。
最近、新聞に日立が、10 万人を社外勤務にすると出ていました。オフィスに出てこなくても仕事ができる環境を整備して、個人個人のライフスタイルに合わせた快適な仕事環境を整備していくそうです。国内では、今後、この様な取り組みが、加速されていくでしょうが、日立の取り組みは単に働き方改革を実践するというよりも、社員を使って新しい用途を探索する一石二鳥を狙った新製品開発と捉えた方が良いでしょう。ネット技術の開発は、センサーや端末などの個々の要素技術の開発はもちろん、同時に使う人の新しいビジネススタイルやライフスタイルを追求する用途開発が求められます。その用途が顧客に受け入れられて初めて、新製品として市場に出てきます。このビジネススタイルやライフスタイルが世界中の人々から受け入れられ、我社あるいは、私も取り入れたいということになれば、それこそ、世界中から注文が殺到することになるでしょう。
このネットを使った技術開発は、用途開発とソフト開発に大きな比重が置かれる点が今までの研究開発と大きく異なってきます。ソフト開発は、何も一か所に集まって仕事をする必要がなく、自宅でもできる業務の最たるものでしょう。離れた環境でのテレワークや色々な人が集まる仮想空間の設定も、技術の進歩で当たり前になるでしょうし、心を通い合わせるコミュニケーションも同じ場所にいなくてもできるようになるかもしれません。
そうなると個々人が、どのようなライフスタイルを構築するかが、大きなテーマになって来ます。少子高齢化が叫ばれる日本では、少子化に伴いビジネスの場の効率化や快適さを追求する技術開発が進むでしょうが、我々高齢化の方に属する人種にしますと、それよりも、快適な老後を過ごせるライフスタイルの方が気になります。買い物や仕事はネットと携帯、配達はドローンで、健康診断はネットの遠隔診断で、時には、我が家のスクリーンで遠くにいる友達とネットカラオケやネット宴会でもやって、生活は海と山に囲まれて温泉に浸かってのほうが良いかと。家の周りに櫻の木を 100 本くらい植え、園芸をやり、ピザ窯でも用意してやるとインスタ映えするでしょう。これで、地域活性化につながれば良いですが、You Tubeにあげて広告費でもとるかとなると、ゆったり感がなくなりビジネスの話になってしまいます。
少子高齢化の少子化向けは、企業の人手不足解消や効率化、人材募集への貢献などの企業ニーズを期待して、企業の製品開発投資が優先するでしょうが、高齢化向けは、年金暮らしの老人のニーズか、社会政策関連の税金頼みになるため、投資は後回しになるでしょう。それなら、後回しにならないように、私も手を挙げて、個人で新しいライフスタイルを発信してやるのも良いのではないかと思っております。
次号(No.29)は 西尾 好司教授 が執筆予定です。