近年、理系出身の社長が経営する企業の好調がよく語られているような気がします。これは製造業に限った話ではないのです。また、好調企業群に占めるIT企業の割合が多いから、という単純なことでもありません。
近年、理系出身の社長が経営する企業の好調がよく語られているような気がします。
技術経営の学校の人間が、いまさら何を言っているのか。
たしかにそうなのですが、これは製造業に限った話ではないのです。また、好調企業群に占めるIT企業の割合が多いから、という単純なことでもありません。
不確実なビジネスの典型とされる外食産業や、感性で経営方針を決めているように見えるアパレル企業、そしてメガバンクにおいても同様なのです。
社名をあげれば、外食産業で安定的な成長をしている「サイゼリヤ」、子供服の流通チェーン「西松屋」、副社長ですが三菱UFGフィナンシャル・グループなど。まあこの際、理系人材が金融・証券業界に流入した結果がリーマンショックだということには目をつぶっておきましょう。
■DXやAIでザワついています
いまや、企業の舵取りにはDXやAI技術が少なくない比重を占めています。となると、この辺りを理解できなければ、実効性のある経営判断も下せないということは道理ですね。
それに、最近の理系はコミュニケーション力も高い。私の知っている“しゃべれるオタク経営者”にはDMMの松栄さんがいます。
一方、人事マネジメントという微妙なカテゴリーにも理系人材がポジションを得るようになり、合理的な判断で社員の処遇をする。文系的な情実や忖度を挟まないぶん、なんだか第三者からも公平に見えてしまう効果が生まれたりします。
そのほかにも、一般的な要因はいろいろだと思いますが、私の視線の先には次のようなことがあります。
■行動経済学は陳腐化する?
ご存知、人は常に合理的な判断をして生活や買物をしているわけではない、というノーベル賞案件の研究成果が行動経済学ですね。
けれども、何が合理的か──どんな選択が正解かは、グーグル先生が一瞬で教えてくれることが増えました。多様な疑問や課題に対して、先人の試行錯誤と結論が検索結果に羅列されてしまうのです。
これまでは口コミ度合いが高くなかった日本人(ラテン系とかすごいです)にとって、SNSなどは待望の情報共有プラットフォームとして出現したように見えます。最安価格は、掌中で指を滑らせるだけですぐにわかる。A社製品を買うと失敗することも人差し指で引っかくだけで知ることができる。
つまり、インターネット社会の進展によって合理的な「ネット知」が行き渡り、情報の非対称性が薄まっているのがいまです。
それゆえ、お客様の無知や衝動的な判断につけ込むような商売は永続性をもちえません。家電量販などでも、商材によっては店員よりずっと仕様に詳しい来店客もいますから。かくして、大衆において情報の均質化が進み、多くの人の行動が合理化していく。となると、行動経済学は寿命を縮めているのではないかと思うのです。
■中小企業にとっては切実こそ確実
日本社会において「買物リテラシー」の底上げが進行した結果、データや統計に従って「計器経営」をする傾向にある理系の経営者の判断が支持される、ビッグデータの蓄積や簡易なネット調査がその決定を後押しする…。
理系社長の活躍には、このような時代的背景があるのではないかと考えるのです。
このようなとき、「顧客は不合理な選択をすることもある、その心理的背景を捉えたい」などという不透明な学びに時間を割くのは損失となります。
大手企業はともかく、資源の限られた中小企業は確実性の高い市場を狙うべきと私は唱えてきました。それは、一言で言えば「切実な商品」をつくるということです。
切実とは、トイレットペーパーのような必需品のことではありません。多くの人に求められるわけではない、しかし一部の分野では確実に求められる商品を指します。一部の人がターゲットということは、大手企業のようにマスが対象の価格競争商品ではなく、ニッチな商材です。一部の人の趣味品や、不安解消、時短などの課題を解決する商品のことです。
自社が保有する技術や生産設備などの強みを生かし、切実なニーズに応える商品をつくってこそ顧客に選ばれる。それが、情報のフラット化した合理的社会における勝ちパターンとなるのではないでしょうか。