Business Economics
「経済」とは「経世済民」からつくられた言葉である。経世済民とは民をすくうために社会を運営していく、という意味であろう。また、経済学は「Economics(エコノミクス)」の日本語訳であり、エコノミクスはラテン語の「オイコノミア」を語源としているといわれている。オイコノミアとは家庭の管理・運営を意味しており、ここから広く転じて組織を管理することや社会を運営していくことについて考える学問をエコノミクスと呼ぶことになったと思われる。転じて、周知のとおり現代社会は文理を問わず「経済」が占める重みが非常に大きな社会である。またその重みは現在のところますます大きくなっているように思われる。
MOTを学ぶ皆さんには「文系・理系」という学問体系の系統分けはすでに死語と位置づけられているかもしれないが、多くの皆さんにとって「経済学」はいわゆる文系の学問であると認識されているのではないだろうか。その一方で、近年の経済学は学問の発展の方向性として数学や統計学の要素を多く取り入れており、学部レベルの学びにおいても数学的知見が相当程度必要になっている。
こうした傾向は経済学のみならず、心理学や経営学等においても程度の差こそあれ見られるものである。これは決しておかしな現象ではなく、それぞれの学問領域が本来目指しているところ、明らかにしようとしているところにより近づいている証左として考えてよいものと思われる。
「社会における経済」の重みについて今後どのようになっていくのがよいのか、立場によって考えは異なるが、いずれの立場に立つ場合においても、これまでの歴史的背景を知り、現状を把握し、冷静に社会のあるべき状態を考察することが大切である。
この講座を学習することによって、経済学と社会のつながりを自分なりの考えをもって理解することができ、社会の問題や解決方策について理論的な背景をもって考察できるようになることを目指すこととする。
本講義では、経済学をできるだけ「広く浅く」学ぶために、経済学と実体社会、実体経済がどのように結びついているか、経済学は社会をどのように捉えているかを概観する。その後伝統的なミクロ・マクロ経済学の理論構築について理解する。さらに新しい経済学の理論を学ぶことで、未来社会において経済学が果たそうとしている役割について考察する。
学生の皆さんの多くが経営者や企業の幹部あるいは幹部候補であることに鑑み、自社や自部門の事業活動と社会全体、世界規模の経済事象との関連や相関について経済理論をもとに考察し、適切な意思決定の一助とする能力を高めることを目標とする。
経済学および国内外の経済事象に興味・関心を持ち、知的好奇心旺盛な学生の皆さんの受講を期待する。
予習:身の回りの様々な経済事象について報道やインターネット、参考書籍等を活用し、情報収集し、因果関係や今後の予測について検討する。
復習:第1回、第2回共通課題レポート「経済学が社会に対して果たす役割について思うところを述べよ」
講座の進め方、グラウンドルール、イントロダクション
経済学概説(経済学の全体像)
経済と社会、社会課題のつながり
経済学の役割、経済学のスコープ
有
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第1回と共通。
第1回を受けて、クラスディスカッションを予定。
テーマ「経済学は人びとを幸せにできるか(日本における人口動態変化や世界における人口動態変化、日本と世界各国の経済成長の動向などを俯瞰して考え、経済学が社会に与えるインパクトを共有する)」
有
個別フィードバック
予習:「政治」「戦争」「革命」「宗教」など経済学史と関係の深いテーマの中から自分の興味の深いテーマを選び、それぞれの「歴史の流れ」について概略を調べる。
復習:第3回、第4回共通課題レポート。「現代の経済事象を解釈する際に、どのような歴史や歴史上の出来事が参考になるか述べよ」
経済学史
オイコノミア、経世済民の時代から大航海時代、重商主義、産業革命、大恐慌、世界大戦、東西冷戦、欧米の凋落と中国の台頭という世界史の流れを概観しながら、時代に応じた経済の捉え方、基本的考え方を知る。
有
個別フィードバック
第3回と共通。
第3回を受けてクラスディスカッションを予定。
テーマ「繰り返される歴史に学ぶ意義(経済を学ぶ際に切り離せないのが歴史の視点であることを再確認し、社会の継続と発展について議論する)」
有
個別フィードバック
予習:自身が小学生のころに購入した(比較的高価な)ものについて、その価格や購入したときの喜びなどを思い出す。復習:さらに現在の自分がそれと同等の喜びを得るためにどのくらいの貨幣価値が必要かを考えてみる。
復習:企業における事業活動の意思決定、もしくは消費者としての自身の購買行動の意思決定場面を思い出し、ミクロ経済理論に則ったものやそうでないものについて考察する(例:故意に高くして売る活動や価格の安いものの需要が減少する現象など)。
ミクロ経済学の基礎Ⅰ
需要曲線、供給曲線の導出(消費者行動理論、企業行動理論)をベースに、市場、価格、財、比較優位論(国際分業論)などミクロ経済学の基本的概念を理解する。
第5回と共通。
第5回を受けてクラスディスカッションを予定
テーマ「効用最大化と利潤最大化のせめぎ合いと神の見えざる手の働き(市場原理を理解するとともに、どのような領域で「市場」が有効に機能するのかを議論する)」
予習:行政サービスや各種の公共的なサービスについてその適正な価格はどれくらいかを考えてみる。また、有権者一人にとって選挙権の行使がどのくらいの貨幣価値があるかを考えてみる。
復習:第7回、第8回共通課題レポート。「現代社会を動かすメカニズムについて考える際、ミクロ経済学がどのように寄与するか述べよ」
ミクロ経済学の基礎Ⅱ
市場の失敗、独占・寡占市場理論、厚生経済学等ミクロ経済学の応用的論点を紹介。
有
個別フィードバック
第7回と共通。
第7回を受けてクラスディスカッションを予定。
テーマ「炭素税とSDGSは地球の未来を救うか(市場介入による社会的厚生の実現はどうすれば実行可能なしくみとなりうるか、経済学的観点から社会、環境について考察する)」
有
個別フィードバック
予習:現代の日本社会は好景気か不景気か、またなぜそう判断するか、考えてみる。
復習:個人消費、企業投資、政府支出、輸出、輸入の5つの要素について短期(1年程度)から中長期(3年から5年)の大まかな予想を考えてみる。
国民経済計算(国民所得の計算)、消費関数・貯蓄関数、乗数効果等からIS-LM曲線の導出までの考え方を理解する。
第9回と共通。
第9回を受けてクラスディスカッションを予定。
テーマ「異次元緩和と出口戦略(金融緩和の終了もしくは適正化)によって日本経済はどう変化するか(クラウディング・アウト、流動性のわな、コストプッシュ・インフレ(いわゆる悪いインフレ)等、現在の日本経済を考えた場合に想定されるマクロ経済理論の考え方と、経済政策をどう整合するか、議論する)」
予習:明治維新後から現在までの日本と世界(主に対欧米諸国及び対東アジア諸国)の経済関係について貿易や為替の視点から考えてみる。
復習:第11回、第12回共通課題レポート。「現代社会を動かすメカニズムについて考える際、マクロ経済学がどのように寄与するか述べよ」
マクロ経済学の基礎Ⅱ
開放経済体系におけるマクロ経済理論、AD-ASモデル(総需要-総供給モデル)の導出、などマクロ経済学の応用的論点を理解する。
有
個別フィードバック
第11回と共通。
第11回を受けてクラスディスカッションを予定。
テーマ「日本経済の未来(主流のマクロ経済学の理論とは異なる政策をとり続ける日本経済の姿と問題点、その背景事情を議論し、日本の明るい将来像を描く努力を共有する)」
有
個別フィードバック
予習:いわゆる「トロッコ問題(詳細は前週までの講義中に触れる)」についてインターネット等を活用して情報収集し、自分なりの解を見つけ、説明できるようにする。
復習:行動経済学、ゲーム理論などの経済学の潮流をおさえ、より人間的な面を考慮した経済学が社会にもたらす影響を考える。
ゲーム理論、行動経済学(ナッジ)など新しい経済理論について概要を理解する。
経済学と数学・物理学の関係について考え、経済学の学び方のバリエーションを増やす。
第13回と共通。
第13回を受けてクラスディスカッションを予定。
テーマ「経済学の新しい学び方とこれからの社会(いわゆる新しい経済学が生まれる社会的背景や歴史的背景を考え、経済学をどのように社会の発展に役立てることができるか、議論する)」
予習:シラバスに挙げた参考図書や講義中に紹介した参考図書のうち、1~2冊を読み、当該書籍で示されたテーマ、主張について自分なりに見解をまとめる。
復習:最終課題レポート(提出期限は別途指定する)。「経済学を学び、あらためて①経済学とはどのような学問であるか、②経済学が社会の発展にどのように寄与するか、③自らが経済学に対して今後どのように向き合っていきたいか、思うところを述べよ」
総合的なクラスディスカッションを予定。
学生が参考図書の1冊~2冊をあらためて精読し、経済や経済学に関する見解を述べ、それをきっかけに意見交換、討議をする。
有
個別フィードバック
講義方式、討議方式(場合によってグループ討議方式を採用する)、発表・質疑応答。
特に用いないこととする。授業資料は各回において講師が準備したものを用いる。
⇒ミクロ経済学、マクロ経済学を中心とした伝統的な経済学の理解を目指す書籍
マンキュー経済学Ⅰ ミクロ編 グレゴリー・マンキュー 東洋経済新報社 978-4-492-31519-4
マンキュー経済学Ⅱ マクロ編 グレゴリー・マンキュー 東洋経済新報社 978-4-492-31520-0
経済学入門ミクロ編 ティモシー・テイラー かんき出版
経済学入門マクロ編 ティモシー・テイラー かんき出版
ビジネス・エコノミクス 伊藤元重 日本経済新聞出版
現代経済学の直感的方法 長沼伸一郎 講談社 978-4-06-519503-1
経済数学の直感的方法 マクロ経済学編 長沼伸一郎 講談社
日本経済図説 宮崎勇 本庄真 田谷禎三 岩波新書 978-4-00-431878-1
世界経済図説 宮崎勇 田谷禎三 岩波新書 978-4-00-431354-0
非対称情報の経済学 薮下史郎 光文社新書
⇒厚生経済学、経済倫理を中心とした書籍
経済学は人びとを幸福にできるか 宇沢弘文 東洋経済新報社
社会的共通資本 宇沢弘文 岩波新書 4-00-430696-5
人口減少社会のデザイン 広井良典 東洋経済新報社
幸福学×経営学 前野隆司 小森谷浩志 天外伺郎 内外出版社
絶望を希望に変える経済学 バナジー、デュプロ 日本経済新聞出版
それをお金で買いますか 市場主義の限界 マイケル・サンデル 早川書房
経済学と倫理学 アマルティア・セン ちくま学芸文庫 978-4-480-09744-6
⇒資本主義に対する疑問、アンチテーゼを主張する書籍
ポスト資本主義 広井良典 岩波新書 978-4-00-431550-6
資本主義の正体 池田信夫 PHP研究所
武器としての「資本論」 白井聡 東洋経済新報社
資本主義という謎 水野和夫 大澤真幸 NHK出版新書
資本主義の再構築 レベッカ・ヘンダーソン 日本経済新聞出版
人新世の「資本論」 斎藤幸平 集英社新書
21世紀の資本 トマ・ピケティ みすず書房
⇒ゲーム理論、行動経済学を理解する書籍
ゲーム理論 岡田章 有斐閣 978-4-641-16577-9
行動経済学 経済は感情で動いている 友野典男 光文社新書 978-4-334-03354-5
行動経済学の使い方 大竹文雄 岩波新書
新行動経済学読本 水野勝之 土居拓務 明治大学出版会 978-4-906811-31-1
⇒経済学(経済史、歴史を含む)に対する幅広い視野を培える書籍
若い読者のための経済学史 ナイアル・キシテイニー すばる舎 978-4-7991-0684-6
経済学はいかにして作られたか? 矢沢サイエンスオフィス経済班編 学習研究社 4-05-4013888-0
富国と強兵 地政経済学序説 中野剛志 東洋経済新報社 978-4ー492ー44438ー2
日本経済学新論 中野剛志 ちくま新書 978ー4ー480ー07314ー3
奇跡の経済教室 基礎知識編 中野剛志 KKベストセラーズ
善と悪の経済学 トーマス・セドラチェク 東洋経済新報社 978-4ー492ー31475ー9
サピエンス全史 ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社
21世紀の財政政策 オリヴィエ・ブランシャール 日本経済新聞出版
世界最高峰の経済学教室 広野彩子 日本経済新聞出版
戦後経済史は嘘ばかり 高橋洋一 PHP新書
新書版は数日で読めるものがほとんどだが、それ以外は数百ページの大著も多い。すべての書籍を購読する必要はない。講義の中で紹介したものの中から興味を持ったものを何冊か読んでいただくとよい。
課題レポート提出(計4回)
40 %
第1回、第2回共通 「経済学が社会に対して果たす役割について思うところを述べよ」 第3回、第4回共通 「現代の経済事象を解釈する際に、どのような歴史や歴史上の出来事が参考になるか述べよ」 第7回、第8回共通 「現代社会を動かすメカニズムについて考える際、ミクロ経済学がどのように寄与するか述べよ」 第11回、第12回共通 「現代社会を動かすメカニズムについて考える際、マクロ経済学がどのように寄与するか述べよ」 いずれも以下の観点から評価する 理解度:概要や基本理論を理解しているか 応用度:自分なりの見解を持ち、分かりやすく表現できているか。
最終課題レポート
50 %
第15回終了後 「経済学を学び、あらためて①経済学とはどのような学問であるか、②経済学が社会の発展にどのように寄与するか、③自らが経済学に対して今後どのように向き合っていきたいか、思うところを述べよ」 理解度 経済学の概要について履修前の考えや第1回課題レポート提出時の考えと比較して理解が深まったか。 適用度 経済学と現代社会の関係について自分なりの解釈で論述できているか。 応用度 経済学についての学びをさらに広げ、経済学が学問体系として発展してきたように、自身のこれからの学びを体系立てて論述できているか。
授業への参画姿勢
10 %
講義中の取り組み(主にディスカッション中の発言や他者の発言に対する反応など)について評価する。
経済学は社会科学の中では比較的歴史の長い学問領域である。いままで多くの俊英が競うように経済理論を打ち出し、社会のメカニズムの解明に挑んできた。その系譜は現代においてもとどまることなく、むしろさらに加速しているともいえる。
経済学を学ぶことによって社会科学のダイナミズムを感じるとともに、学生の皆さん一人一人が「my経済学」を打ち立てるくらいしっかりと考察し、意見表明と相互交流を活発にしていただくことを期待する。