日本工大MOTでは、中小企業で働いていたり、所属は大企業であっても中小企業的なマインドを持つ院生とともに、日々、技術経営を教育・研究しています。そんな皆さんから「中小企業特有の経営手法があるのか」といった質問を良く受けます。その回答を、院生と接するなかで気づいた中小企業の特徴を踏まえて考えてみたいと思います。
最初に気づくのは、ユニークなスキルやちょっと意外な人のつながりなど“個人として尖った部分”を持ちつつ、それぞれが組織と連なっている面があります。組織を背負ったピン芸人集団のようなもので、一緒に取り組むとピンxピンとなり他では真似のできないアイデアが生まれてきます。一般的には研修や評価制度が整備され、社員が画一的になって来ているように言われていますが、どうもそうはなっていないような気がします。
また、派遣されている院生と経営者の距離が近く(自身が経営者の場合は勿論ですが)“物事を素早く前向きに決められる”場面を多く見受けます。いわゆる風通しが良いというやつですが、居酒屋での異業種の院生同士の「一緒にやりたいね」という会話が、すぐに「一緒にやっている」案件となり驚かされます。スタッフが沢山いると色んなチェックで時間が掛かるようになりますが、そんなことはないようです。
次には、経営者が自社の市場と技術の両方を良く分かっていることが挙げられます。ニッチだけど高シェアな場合は、さらに多くの情報が集まっています。また経営者の思いや考え方が、社員と日頃接している中で浸透していることがあります。“経営者自身の具体的な役割や顔が見える”ことで、自然な形でリーダーシップが取れているようです。
“小さな機会を大切に捉える”ことも感じます。規模が小さいから当たり前かもしれませんが、変化が早くITなど様々なコストが下がった今、これは重要な特徴です。先進国では大量生産、大量消費の時代は終わりつつありますが、多くの企業では規模が大きく投資力を持つことが有利な面が多かった時代の幻想が残っているようです。小さな機会を積み重ね、素早く変化することを心掛けるべきだと思います。
知財についても“持たない強みで守り易く攻め易い立場を作れる”面があります。もちろん隠し通すべき秘伝のたれを特許として公開する必要はないですが、新たな製品への進出の際にはこれは大きな武器になります。技術や製品種類の多い企業は、多くの知財を持っていても隙が生まれやすく、逆に規模の小さい企業を攻めてもリターンが得られないといった弱みを持つことになります。知財について積極的な取り組みが増えてきました。
このように考えてみると、個を活かす人の育成、スピーディな判断の出来る組織風土、経営者自身の自然なリーダーシップ、小さな機会を大切に捉え素早く変化する、知財として持たない強みを活用、といった中小企業の特徴の中に、本来経営として大事にすべきエッセンスがあるように思います。これを私は中小企業の特徴から学ぶ企業活動の原動力というような意味で、SMEスピリットと呼んでいきたいと思っております。
これらを踏まえつつ最初の質問に戻ると、この5つの特徴は良い面として示しましたが、裏腹に“系統だった人材育成がされていない“ちょっと場当たり的”、“経営者に依存しすぎる”、“経営資源が不足し機会を広く捉えられない”、“新事業でも知財には無関心”など悪い面も出てくることもあるかと思います。日本工大MOTに参加される院生の皆さんが培っているSMEスピリットを活かし、良い面をさらに引き出し悪い面を解消するような経営を確立することが、冒頭の質問への答えではないかと思います。
またそれは、ちょっと隘路に入ってしまっているような日本の企業の皆さんへの、日本工大MOTからの大切なメッセージのような気も致します。
次号(No.12)は 佐々木教授が執筆予定です。