この10年を振り返って大きく変わったことに、大学の講義でも外部での講演でも、女性が活発に発言するようになったことです。
以前は外部の講演などでは、そもそも女性の参加者が少なく、後ろの方で小さくなっていたものです。しかし、この10年で状況は様変わりし、むしろ女性は座席も一番前に座り、質疑応答の時も活発に発言し、それに積極的に本音をぶつけてくるようになっています。
先日もある大手の重機械メーカーの研究所で講演をした後、若手の女性研究員が作業服姿で私のところに歩みより、今日の講演の内容におおいに賛同するが、研究開発本部長が正反対の意見を持っている、彼の意見は間違っていると彼女は思っているが、どうしたら良いかという質問をぶつけてきました。私の世代では、そもそも女性は重機械メーカーの研究職は選ばないし、彼女よりはるか年齢が上の私に正々堂々と自分の意見をぶつけてくる姿を見て、日本の女性も随分変わったなと思ったものでした。
これは私の認識だけではないようで、企業の管理職の方々などによると、就職活動で男性の応募者より女性の方が元気があり優秀だそうです。日本経済が停滞の中にある中で、活発な女性が様々な職場に進出し活躍することにより、長い間男性中心で良くも悪くも男性の価値観で動いていた経営に新しい異なった価値観が吹き込まれ、さまざまな局面でイノベーションが創出され始めているように思えます。価値観や思考の多様性は、誰しも認めるイノベーションの一つの重要な前提条件です。
しかしながら、日本の多様性の度合いは、女性の社会進出を含めて諸外国に比べまだまだ低いのが実際です。例えば企業の中では、まだ社員の多くが日本人の男性ですし、加えて、職場を見回すと似たような人生を歩んできた、似たような価値観を持つ人達から構成されていることが多いものです。ある明確な具体的目標に向かって、組織の力を結集する場面においては、これは大変良く機能しました。しかし、不確実性の高い環境の中で組織が生き抜いていくには、様々なことにチャレンジし、試行錯誤の中からイノベーションを起こしていくことが必要で、その点日本企業の組織はこのようなイノベーションを起こす前提である多様性が大きく欠けています。
したがって、今後ますます不確実性が増す環境において日本企業がさらに成長していくためには、組織の基本部分で、多様性を強く意識してその実現を追求していかなければなりません。それには、更なる女性の活用を促進すると同時に、もっと様々な異なった経験をしてきた人たちや多様な価値観を持つ多国籍の外国人を組織の中に組み込んでいく必要があります。
翻って、その点、当学においては、院生の企業の規模、業種、役職、年齢も様々です。またこれまで、中国、韓国、タイ、サウジアラビア、スーダンの院生が在籍していました。これらの多様性からもたらされる多様な価値観は、院生全員や大学の運営にとって少なからぬ刺激になってきたと思います。多様性というのは、一つの当学の特徴といえるかもしれません。
今後当学でのイノベーションを促進し、また存在感のあるMOT大学院になるためにも、ますます様々な視点での多様性を進める必要があるように思えます。
次号(No.16)は 武富 為嗣 教授 が執筆予定です。