中小企業では社長が目指す経営理念・経営目標を達成するためには、社長を助ける「番頭さん」が欠かせないようです。最近、経済産業省では「番頭さん」に似た言葉として、「中核人材」といった新たな概念を挙げています。本MOTレターでは、中小企業における中核人材(番頭さん)について考えてみます。
最近のテレビでは、時代劇番組の放映はめっきり減っています。時代劇では「越後屋」「加賀屋」「上州屋」などちょっとした商店も重要な役割を果たしており、大旦那や若旦那、大番頭や番頭の存在が欠かせません。遊び人の若旦那としっかり者の番頭さん、番頭さんの大旦那への裏切り、大旦那の娘さんと番頭さんとの恋、など話題は満載です。
番頭さんに類する言葉は時代とともに変化しており、似た言葉として「参謀」「右腕」、「重役」「幹部社員」、「懐刀」「ナンバー2」などと呼ばれています。それぞれ言葉の変化とともに果たす役割、在り様も変化していることも見逃せません。
大手企業では会社組織に従って人材を配置されているようであるが、中小企業では人材が限られておりそれら人材を活かせるように会社組織づくりが行われているのが実態です。中小企業では社内人材を活かせる組織づくりが社長の悩みどころですし腕の見せ所です。そうした中で、中小企業では社長が目指す経営理念・経営目標を達成するためには、社長を助ける「番頭さん」が欠かせないようです。その「番頭さん」の能力、会社が抱える課題などによって、「番頭さん」の社内的位置づけも多様化しています。最近、経済産業省では「番頭さん」に似た言葉として、「中核人材」といった新たな概念を挙げています。本MOTレターでは、中小企業における中核人材(番頭さん)について考えてみます。
<「今日のメシ」を確保するための中核人材(番頭さんA)>
現在、多くの中小企業では従来事業に従来ほどの成長が期待できなくなっており、新事業の創造が大きな課題になっています。しかし、社長の多くは現事業を任せられる人材は社内に不在であり、社長の殆どの時間は工場の管理、顧客との折衝、資金繰り、社内人事等に費やされているようです。いわば、社長は「今日のメシ」を食べるために一生懸命働いている姿が目に浮かびます。
私は若い頃に元スタンフォード大学の今井賢一先生から「一度創造された企業を単にルーティン的にマネジメントすることは本当の経営者がすることではない」といったようなコメントをおぼろげに覚えております。また、ピータードラッカー先生は、「企業とは何かと問われると、たいていの企業人、経済学者は利益を得るための組織と答えるが、事業の目的として有効な定義はただひとつ、それは顧客を創造することである」と指摘されています。
こうした指摘を自分なりに整理すると、本来のあるべき社長の最大の仕事は、将来を見据えて新たな事業(明日のメシ、明後日のメシ)を如何に創造するかではないかと思います。しかし、現在の中小企業の多くの社長は「今日のメシ」を食べるための仕事で手一杯で、「明日、明後日のメシ」のための時間が取れていないようです。「今日のメシ」の仕事は社内幹部社員(番頭さんA)にやってもらって、社長はそこで空いた時間を「明日、明後日のメシ」として将来に向けた新事業の創造を行うことが本来の姿のように思われます。
多くの中小企業では、何をおいても「今日のメシ」のためのマネジメントを社長に替わって担える中核人材(番頭さんA)の育成・確保が課題となっています。ここで必要な中核人材(番頭さんA)とは、現在のビジネスに関わる営業、開発・設計、生産等の組織をうまくマネジメント出来る(PDCAを回せる)能力をもっている人材となります。そうした信頼できる中核人材(番頭さんA)がいれば、社長は安心して新事業の創造に時間を投入できます。
<「明日、明後日のメシ」を確保するための中核人材(番頭さんB)>
「今日のメシ」を担う中核人材(番頭さんA)が社内に存在すれば社長は社内の日常的な業務から解放さる時間が多くなります。社長がこの解放された時間を如何に活用するかが課題となり、「明日、明後日のメシ」を確保するための中長期計画の策定、新事業の創造に力を注がれることが期待されます。なかには、ゴルフ等の遊びに興じてしまう社長もいるようです。
本来、社長は経営理念・経営目標はしっかり持っています。しかしながら、全ての社長がIT等の新技術に関する対応力、異業種領域におけるビジネス慣習への適合力、社外人材との多様なコミュニケーション力などを備えているとは言えません。とくに、高齢化した経営者の多くは新技術等に関する具体的、個別的な場面での対応にウィークなところが見られます。こうした場合に、社長をサポートする中核人材(番頭さんB)がいれば社長は大変に助かります。
ここで必要となる中核人材(番頭さんB)は、社長が目指す新事業の方向を踏まえ、その具体化を担う人材となります。新事業の創造には、少なくとも社内の財務基盤・事業実績や今後の事業見通しを踏まえた新事業の必要性の検討、社内に蓄積された技術や顧客との繋がりなどのシーズの確認(強みだけではない)などが必要になり、そうした社内の重要情報の収集・分析が不可欠です。そのため、中核人材(番頭さんB)は社内の重要情報にアクセスできるように社長から信頼される人材であることが必要です。また、中核人材(番頭さんB)は、社内の営業、開発、生産などの現場経験をもつとともに、前掲の新技術への理解と対応力、異業種領域のビジネス慣習への適合力や多様な人材とのコミュニケーション能力(人脈形成力)などを持つことも必要となります。
社長はこうした中核人材(番頭さんB)への強い信頼関係のもと、両者がタッグを組んで新事業の創造を行うこととなります。ただ、こうした中核人材(番頭さんB)を短期間に確保・育成することは難しく、場合によっては社外からの人材のスカウトも考えられます。
<社長のよき相談相手となる中核人材(番頭さんC)>
中小企業の社長とじっくり話すと伝わってくるのは、「社長は孤独である」ということです。社長が意思決定に迷い悩むことは多様な場面で見受けられますが、本当に安心して相談できる相手が不在であることが課題となっているようです。社長の意思決定は論理的思考によってなされることが基本ですが、論理的思考では常識的な解となりがちで経営者による違いが少ないように思われます。社長は論理的思考だけでなく、それに直感的思考を加味した「経営者の勘」を大切にすることが多く、正解としての解が見えない意思決定となってしまいがちです。
社長はこうした意思決定を行う過程において客観的視点からの意見を第三者に求めたいとするものの、その相談相手が不在のようです。現実的に経営者の多様な悩みに応えているのは顧問税理士・会計士、メインバンクなどであり、利害関係者としての性格が強く経営者が抱える本当の悩みごとは相談しづらいようです。そうかといって信頼出来る友人、家族・親族などでは、相談課題に適切に応えられているとはいいがたい面もあります。笑い話になりますが、社長が占い師、宗教家などに真剣に相談しているケースもあるようです。それだけ、経営者にとっては心の底から信頼して抱える課題に相談できる相手がいないと言うことです。
社長のよき相談相手となる中核人材(番頭さんC)は、社長の全ての意見を肯定するイエスマンでは機能しないことは言うまでもなく、案件や状況に応じて真逆となるような厳しい意見が言えることが重要です。そのため、社長とは強い信頼関係で結ばれている、価値観の共有がされていることが前提となっていないと成り立ちません。
この相談相手としての中核人材(番頭さんC)は必ずしも社内にいる必要性は薄く、社外の取締役、顧問等も該当するものと考えられます。
以上が中小企業における中核人材(番頭さんA、B、C)の3つのタイプです。何れも社長と中核人材とは強い信頼関係、価値観の共有で関係性が保たれていますが、中核人材(番頭さん)として留意すべき事項があります。それは社長よりも前に出すぎないことです。中核人材(番頭さん)の活動は社長の経営理念・経営目標の具体化するという枠内でのものであり、最終的な意思決定は社長が行います。結果に責任を持てない中核人材(番頭さん)が社長を抜きにして意思決定することは許されません。
今後の中小企業の社長には、新事業の創造のために中核人材(番頭さん)をうまく確保・育成し、使いこなす力が求められているといえます。
新事業の創造に成功するためには、中核人材(番頭さん)が不可欠のようです。皆さんの知り合いの社長は、「越後屋」「加賀屋」のように優れた中核人材(番頭さん)を持っていますか?