NIT MOT Letter #83

Z世代を追いかけるのは誰の仕事か

  • 弓削 徹
  • 2023年08月29日

マーケティングにおける、さまざまなキーワードや概念。現れては、役割を終えて消えていく言葉たち。私たちは、その概念をどこまで真剣に追いかければいいのでしょうか。とくに、多くの人々が注目する「Z世代」の取り扱いについて考えてみました。

多くの購買行動がキーワード検索からはじまり、SNSでは「#」をつけて発信され、リアルな社会で口コミが起きるときは「アレ、買った?」、「あそこ知ってる?」と話題にのぼる──。
キャッチコピーも、ネーミングも重要。商標やブランドも、キーワードがスタートボタンとなる。いまほどキーワードが重みを持つ時代はなかったのではないでしょうか。

そのため、さまざまな組織が新たなキーワードをレバレッジにするべく打ち出してきます。
例えば「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。原典は2004年にスウェーデン大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したものです。それを、経済産業省が見出してきて、国内産業のデジタル化推進のキーワードに据えたのです。
とはいえ、DXの事例として紹介されるのは「IT」によるもの。定義は異なっていても、その本質が変わるものではありません。
そこには「IoT」のような枝葉も含まれているでしょうし、ITもかつては「OA/FA」と呼ばれていました。

「ユニバーサルデザイン」ではなく、いまは「インクルーシブデザイン」です、と言われたりするのも同様です。
「メタバース」で盛り上がり、社名変更までしたSNS企業もありますが、「セカンドライフ」の幻影を再演することになりはしないかと心配するのみ。

こうした潮流はマーケティングの分野において、より顕著です。
・「トリプルメディア」ではなく、「PESO」モデルと呼ぶ
・「TMOT」ではなく、「ZMOT」の時代です
・「Twitter」ではありません、「X」です(あ、これは違いますね。)

キーワードは消費され、時代は新語を求める──

新たなキーワードの出現には二つのケースが考えられます。
一つは新たな事象にネーミングをするもの、もう一つは旧来の事象に新規ネーミングをしてリニューアルするもの。
おまけで言うと、「レトロニム」という言葉もあります。
これは、新しい概念の発生に伴い、旧来のモノや概念に改めてキーワードが割り振られる現象のことを指します。

<例>※左の新語誕生により→右の言葉が生まれた
・スマホ→ガラケー
・デジタル→アナログ
・カラーテレビ→白黒テレビ
・回転寿司→回らない寿司
・ホットコーヒー→アイスコーヒー

かくして、産出され続けるキーワードたち。それらのいちいちに、たいした意味があるとは思っていません。
もちろん、顧客に伝えるためのキーワードは、そのすべてがとても重要です。しかし、内輪で何やらの現象を定義したり、理論に名前をつけたりするようなことは二の次です。「ニーズ」と「ウォンツ」はどう違うか、などは本質的な問題ではないのです。

北の達人コーポレーションの木下勝寿社長は、化粧品や健康食品の機能性を打ち出すとき、流行の素材名にとらわれない商品価値の提示を心掛けているといいます。
たとえば、「コエンザイムQ10」という注目の素材を含む健康食品を打ち出した場合、仮にそのブームが去ったときに商品も古くなってしまう、と。
つまり、消費されてしまうキーワードと一緒に心中するようなことがあってはならないのです。

さて、いよいよ本題に入っていきましょう。
世代をフィーチャーするキーワードとして、「Z世代」があります。Z世代とは、これまでとは異なる価値観を持ち、今後の消費社会をリードしていく人たちであるとされています。

・X世代=1965年頃から1980年頃生まれ (団塊ジュニア世代)
・Y世代=1980年前後から1990年代前半生まれ (ミレニアル世代)
・Z世代=1990年代後半から2000年代前半生まれ (デジタルネイティブ世代)

Z世代は、新しいブランドや商品の情報を広告ではなく、InstagramやX(Twitter)などのSNSで知る、コストパフォーマンスよりタイムパフォーマンスを重視する、LGBTQなど多様性に寛容である、などの特性が報告されています。
そして、メディアでは「Z世代をどうやって捕捉するか」というテーマの記事があふれかえっているのが現状です。これからのビジネス対象として、Z世代の消費動向を捉えなければ将来的に先細りになってしまう、と焦燥感を抱く企業が多いからでしょう。

キーワードは大切だが、囚われてはならない

しかし、いつの時代においても繰り返されてきたのが、「いまどきの若いやつは……!」であり、「後生おそるべし」です。
そもそもZ世代は人口が少なく、消費性向がバラバラで気まぐれです。平成デフレやリーマンショックで傷んだ親に育てられたため消費に対して消極的であり、カネを使わない、使えない層です。ここを追いかけることはビジネス上の効率がよいとはいえません。

一方で、より上の世代は消費性向がまとまっていますし、可処分所得が多かったり、経営者やB2Bの発注者であったりするため、フォーカスしやすい消費者層であるといえます。シニア層に至っては、気に入ったものにカネをふんだんに使う人たちも少なくありません。

それでもZ世代を追いかけなければならない、または追いかけることができるのは、国民全員を顧客とするような一般的なコモディティ商品を製造・販売したり、店頭の棚に並べる流通チェーンなどの大手企業です。

Z世代も、やがてはミドルへ、シニアへと成長します。そして、M2(35〜49歳男性)、M3(50歳以上男性)、F2(35〜49歳女性)、F3(50歳以上女性)以降の大人消費や、経営者、B2Bの発注者など、わかりやすく捕捉しやすい消費性向へと収斂せざるをえない立場になっていきます。

中小企業、B2B企業は、そのときに「いらっしゃい」と言って、大人になったかつてのZ世代を迎えればいいのです。

 

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