NIT MOT Letter #23

SME(SME: Small Medium Enterprise)スピリットからの発信

  • 清水 弘
  • 2018年02月05日

NIT MOT Letter No11で、中小企業で働いていたり、所属は大企業であっても中小企業的なマインドを持つMOTの院生たちの特徴を、SMEスピリットとして考えて見ました。

本年度の春・夏学期に、起業と第二創業、現場施工サービスの革新、中小企業の武器としての知財、デジタル活用、今後のリーダーの在り方といった中小企業の様々な課題について、先生方や修了生の皆さんと一緒に五回のセミナーを開催しました。それぞれのセミナーでの講演から、SMEスピリットをさらに考えて見たいと思います。

最初の二つは中小企業の人の動き方や組織の特徴についてです。

”起業と第二創業”、特に第二創業は中小企業にとって大変重要です。中小企業は事業領域が絞り込まれているため、新たな領域への発展には、人モノ金の再配分など第二の創業というべき腰を据えた取り組みが必要です。そのためには、新たな経営ビジョンが求められますが、中小企業は経営者の顔が社内外で見えやすく方針が浸透しやすいと言えます。また市場と技術の両面を理解する経営者が多く、顧客に頼りにされ、人的ネットワークも豊富で、早い意思決定でビジネスを進めています。規模よりスピーディな価値提供が求められている現在、製品種類や設備規模といったハードに加え、中小企業の人や組織の持つソフトの強みが活かせるようになっています。

“現場施工サービスの革新”では、建設業の人手不足による生産性向上が大きな課題となっている中で、塗装事業者とメーカーの勉強会の紹介がありました。ドイツ視察など様々な工夫で勉強会を継続し、塗装の品質の自主規格の作成や、顧客ニーズにあった塗装手法の研究などを実践し、子供に薦めたくなるカッコいい職人を目指しているとのことです。中小企業が連携することでの、大きな課題解決の可能性を感じました。

次の三つは、知財、デジタル活用や今後のリーダーの在り方といった、人の動き方や組織の特徴をより強化する視点についてです。

“中小企業の武器としての知財“については、中小企業は自社独自の秘伝のタレの技術を持つ企業が多く、技術を公開しないといけない知財への関心はあまり高くありません。ただ新たな領域で苦労してビジネスを作ったら、それに目をつけた競合から特許侵害で訴えられ、動きが取れなくなるといった事例が増えています。新しい領域の製品は、既存とは異なる競合の知財への注意が必要です。ただ多くの製品を持つ大規模な企業は隙が出がちですが、中小企業は領域が絞られるため、少ない知財で技術を守りやすいとも言えます。知財という武器を活かして技術を守りつつ、新しい領域に発展していく事も大切です。

“デジタル活用“、例えば製品の顧客での稼働状況や開発・生産現場でのデータ分析によって、顧客へのサービス提供や、現場での人手不足解消、品質向上、リードタイム短縮、設備稼働向上など、埋蔵金の発掘が可能になっています。特に、凄い勢いで安価な分析ツールが提供され続けており、中小企業の多様で小ない頻度の仕事にも活用できるようになっています。ただユーザーが、これら分析ツールの全体を理解することが難しくなってきてもいます。埋蔵金の在りかを知るユーザーと、ツールを知るIT企業が仲間として一緒に検討する事がキーポイントの様です。

“今後のリーダーの在り方”については、これまで触れてきたような様々な変化に対応するために、個々人がリーダーとして、新たな仕事の取り込みと既存の見直しを行うことが不可欠になっています。中小企業は、個々人の仕事の守備範囲が広く全体が見える事で、個々人のやる気次第で変更が可能です。個々人がリーダーとして、自分のやりたい新たな仕事を作る姿勢が大切なようです。

変化の激しい現在では、個人が自ら気づき新たな仕事のアイデアを持ち、そのネットワークを活かして実現し、個人の自己実現と組織への貢献を両立するような動き方が、求められているのでないかと思います、中小企業の人の動き方や組織の特徴とそれを強化する視点、すなわちSMEスピリットは、企業の規模にかかわらず、人や組織の在り方として重要になるのではないかと考えています。今後益々、SMEスピリットからの発信を心掛けて行きたいと思います。

清水弘

清水弘(専任教授)

  • 専任教授(実務家教員) 研究科長
  • ビジネスエンジニアリング株式会社 社外取締役
  • アーサー・D・リトル株式会社(ADL)シニアアドバイザー
  • 日本の中堅製造業の監査役や中国の自動車部品企業のCEOアドバイザー
  • 研究・イノベーション学会会員

次号(No.24)は 近江 正幸教授 が執筆予定です。

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