2022年度の授業が始まりました。コロナ禍にあった一昨年度と昨年度は、ほとんどの授業がオンライン授業でした。今年度から、中小企業経営コースと事業創造コースは、教室での対面授業と自宅や仕事場からのオンライン授業を自由に選べるハイブリッド形式の「複合授業」をスタートしました。
コロナ禍以前は、山梨県や栃木県、遠いところでは長野県や宮城県などから、毎日、新幹線や高速バスを使って通学する方もいらっしゃいました。複合授業が始まった今年度は、遠距離通学する必要がなくなったので、関西や東北からオンラインで受講している方もいらっしゃいます。オンライン会議やリモートワークが普及、定着したのは、コロナ禍がもたらしたポジティブな効果だと言えるかもしれません。
オンラインによるコミュニケーションが日常的になった最近では、オンラインコミュニケーションと対面コミュニケーションの違いを取り上げる研究も増えています。本学MOTで小田教授と私が担当している「ネットワーク型事業創造」の授業でも、オンラインと対面のコミュニケーションの違いを取り上げています。
授業中の議論では、多くの方が、対面のほうが伝達できる情報量が多く、その場の雰囲気や相手の表情も読み取りやすいので、活発な議論がしやすい。それゆえに、対面のほうが信頼関係や友好関係を築きやすいと感じている人が多いようでした。授業でみなさんが感じているのと同様の傾向を示唆する先行研究もみられます。
私自身も実務の経験から、見積書の説明とかそれに続く価格交渉や契約条件交渉など、ビジネス上でキーポイントとなりそうなミーティングやセンシティブな話題の打ち合わせは、オンラインよりも対面のほうが適していると感じていましたし、対面で会ったほうが信頼関係や友好関係を築きやすいという意見に同意していました。
ところが最近、「対面で会ったほうが信頼関係や友好関係を築きやすい」という傾向と相反するようなニュース報道が飛び込んできました。コロナ禍で「国際ロマンス詐欺」が急増しているというのです。国際ロマンス詐欺とは、SNSなどで国境を越えて知り合った相手からお金をだまし取るという犯罪です。メールやチャットのやり取りだけで恋愛感情を抱き、相手を信頼してお金を送金したり、架空の投資話に乗ったりして、多額の現金をだまし取られてしまう被害が増えているそうです。「SNSだけで相手を信頼してしまうなんて、しかも恋愛感情まで抱くなんで、そんなにだまされやすい人がいるのか?」と、最初は大いに疑問でした。
しかし、私自身の過去を振り返ってみると、以前に勤めていた会社で、スカイプのチャットだけでやり取りしていた海外にいる外国人の同僚に対して、ほのかに好意を抱いたことがあったことを思い出しました。私自身もチャットだけで恋愛感情を抱いてしまう人だったのです。
なぜ、チャットだけで好意を抱いたのかを改めて冷静に考えてみると、チャットだけのコミュニケーションで余計な情報が伝わらなかったことが、むしろ良かったのだと気が付きました。相手の顔とか声とか体型とか態度とか、同じオフィスで働いていたら当然に入ってくる情報が、チャットだけのコミュニケーションでは一切伝わってきません。オンラインコミュニケーションは、対面コミュニケーションに比べると伝達できる情報量が少ないのですが、そのほうが好都合になる場面もあるということです。
対面コミュニケーションとオンラインコミュニケーションは、それぞれに特性があり、それぞれにメリット、デメリットがあります。オンラインコミュニケーションが拡大し続けるであろうと思われるこれからの時代は、対面とオンラインの違いを見極めながら、どちらも上手に使いこなしていく必要がありそうです。
チャットだけで会ったこともない同僚に好意をいだいた過去の自分を思い出すうちに、爆風スランプの歌が私の頭の中に流れ始めました。「ペンフレンドの二人の恋は、つのるほどに悲しくなるのが宿命…」
恋するペンフレンドは、対面で会わずに終わって良かったのかもしれないなぁ~と、なぜか感傷的になって、年甲斐もなくウルウルとしてしまいました。
今日は、神田キャンパスから少し歩いて千鳥ヶ淵で夜風に当たり、光るタマネギを見てから家に帰ります。