NIT MOT Letter #74

「ウェルビーイングと企業経営について考える」

  • 三宅 将之
  • 2022年08月18日

 岸田政権は「新しい資本主義」を経済政策のキーワードとし、「人への投資」を重点施策として掲げた。近年、優良企業を中心に、働き方改革を進化させ、従業員のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)を高めることで企業業績を高めようとする取り組みが広まりつつある。これまで、企業経営における価値の本質に関わる個人の幸せをはじめとするウェルビーイングに直接触れることを避けてきた経済学と経営学が大きく変わろうとしている。

 例えば、新古典派経済学の効用概念に近い理解で、価値とは「何らかの満足を得ること」と定義することで、企業の価値創造とは「何らかの満足を提供すること」であり、社会的に繰り返されることで、「社会全体の満足度が高まる」ことに資するものと認識しうる。

「満足」が増えると、当然、人々の幸福感は増えると考えられるので、「価値創造とは幸福な社会を創ること」になる。すなわち、企業という組織は「個人の満足」を「社会の満足」につなぐ機能を果たすことが期待されていると捉えることができる。

 近年、このような考えに立つ経営の有効性を示す科学的根拠が得られるようになってきた。例えば、幸福度の高い従業員はそうでない従業員より創造性や生産性が高いことや、従業員のウェルビーイングの決定要因や企業業績への影響分析などが進められている。

 このような問題意識を持ちつつ、私が所属する日本価値創造ERM学会(https://www.javcerm.org/)は昨年2月以降、㈳人生100年社会デザイン財団(牧野篤代表理事・東京大学大学院教育学研究科教授 http://www.100design.or.jp/)の方々とのコラボレーションを始動した。「人と組織のあり方研究会」を昨年8月~本年3月まで計6回開催し、当MOT修了生である植田和典氏の「私のUnlearn体験」の話からはじめ、新しい社会における人の生き方と組織のあり方から企業変革の実践に向けて議論を重ねてきた(下記の開催実績参照)。「やりがい」にフォーカスした議論が続いたが、やりがいを育み活かす企業は、従業員に対して自己決定感を実感できる環境と成長機会を実感できる環境を提供しており、これが従業員のウェルビーイングを高めることになり、企業の付加価値の創造に資することを参加者間で確認した。

 本年4月以降はこれまでの研究成果をもとに、対象企業数社を選定のうえ実践フェーズへの移行を試みている。本活動に関心あるMOT関係者の参画を歓迎したい。

                       「人と組織のあり方研究会」開催実績

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三宅将之

三宅将之(専任教授)

  • 専任教授(実務家教員) 副研究科長・学務長
  • 日本興業銀行、野村総合研究所主席コンサルタント、ガートナー Senior Executive Partnerなどを経て、2015年4月より本大学院専任教授
  • 日本価値創造ERM学会会長(現)
  • 日本証券アナリスト協会検定会員(現)

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