パリオリンピックにおける連日の白熱した競技および日本人を中心とした活躍を応援することに加えて、猛暑によって睡眠不足の日々が続きました。始まる前は「ダイジェストで良いや」と思っていましたが、始まるとついつい見続けてしまうのがオリンピックの魔力ですね。
毎日、様々なドラマが展開されましたが、序盤では阿部詩選手の敗退と阿部一二三選手の優勝が印象的でした。試合後の詩選手の号泣については、SNSを中心として色々な意見が出ています。私は、自分だけではなく兄弟優勝への想いの深さと今迄の努力が表現されたのかなという推測と、次のステップへ進むための意識変化に結びつくことを勝手ながら期待しています。
兄の一二三選手が優勝した後のインタビューで「つらいこと、しんどいことたくさんあると思うんですけど、僕は『努力は天才を超える』っていうのが自分の座右の銘でやらせてもらっています。絶対に無駄な努力ってないと思いますし、もし何かがかなわなかったとしても、その努力してきたことっていうのは絶対に無駄にはなっていないと思うので。やり続けることっていうのは大切だと思うので、努力はして欲しいというか、努力は裏切らないと僕は思っています」と述べていました。敗退した詩選手へのメッセージとの意見もありますが、まさに「グロースマインドセット」が高い柔道家なんだなと思いました。
スタンフォード大学の心理学教授であるキャロル・ドウェック氏は、我々はグロースマインドセットとフィックスド(こちこち)マインドセットを持っていると提唱しています。グロースマインドセットの高い人は「能力や資質は努力次第で伸ばすことができると考え、学ぶことに貪欲で、新たに挑戦する意欲が強い。壁にぶつかったり批判を受けたりしても、そこから学ぼうとする」という特性があります。対照的にフィックスドマインドセットの高い人は「能力や資質は固定的で変わらないと考え、自分が有能なことを証明したいので、努力に意義を感じず、挑戦も少ない。能力の低さを露呈しないよう、すぐ諦めるか挑戦しない」という特性があります。
我々は二つのマインドセットを持つわけですが、どちらかの方が高くなっているわけです。よりスマート/賢く/有能に見られたいという人は、フィックスドマインドセットが高いと言えるでしょう。今回の阿部一二三選手のコメントは、勝敗への執念は多くの人よりも高く持ちながらも、まだまだ強くなりたいという成長への欲求と、そのためには努力は必要であるとの意識の表れだと思います。世界一になってもグロースマインドセットを維持しているのは、「道」の世界を探求しているからかもしれません。「修行とは、何かに勝つためにやるのではなく自分と正しく向き合うもの。鍛錬の道に終わりはない。」と言われている「道」の世界を体現しているのではないでしょうか。
阿部一二三選手と阿部詩選手(およびすべてのアスリート)が、自分と正しく向き合い、更なる努力を継続して2028年のロサンゼルスオリンピックでも活躍して金メダルを取ることを期待しています。