NIT MOT Letter #97

「提案」と「時間」の関係性

  • 小林克
  • NEW
  • 2025年07月12日

選ぶ時間で、成果が変わるかもしれません。

選ぶ時間で、成果が変わるかもしれません。

「中小企業診断士として独立したのですが、どうすれば仕事を獲得できるでしょうか?」

修了生から、そんな質問をいただくことがよくあります。

 

ほとんどの人はクライアントへの提案内容ばかりに気を留めています。

確かに、クライアントへの提案の中身が最も重要であることは言うまでもありませんが、実は提案以外にも、重要なポイントがいくつかあります。

その一つが提案する「時間帯」です。

 

提案の時間帯が、成果に影響する?

先日、あるお客様から訪問時間の希望を尋ねられました。

1.●月●日 午前11時
2.●月●日 午後1時
3.●月●日 午後5時

 

さて、あなたならどの時間を選びますか?

 

私なら、「午後1時」を選びます。

というのも、多くのビジネスマンは、「いつ提案するか」について、あまり意識を向けていません。たいていは、自分のスケジュールに合わせて決めているのが実情です。

しかし選んだ時間帯によって、提案の受け入れられやすさやクロージングの確率が変わるとしたらどうでしょうか?

 

有名な研究が示す「時間」と判断力の関係

このテーマに関して、非常に興味深い研究があります。

2011年、イスラエルで行われた研究(Danziger, Levav, & Avnaim-Pesso, Proceedings of the National Academy of Sciences)では、1,112件の仮釈放審査データを分析し、「時間帯が判断に与える影響」が明らかにされました。

判事たちは1日に複数の案件を審査していましたが、次のような傾向が見られたのです。

  • 午前の審査開始直後:仮釈放許可率 約65%
  • 昼前になると:5〜10%に激減
  • 昼食後すぐ:再び60%以上に回復
  • 午後の後半:再び大きく低下

この結果は、私たちが「常に公平に判断している」という思い込みを覆すものでした。

実際には、判断力は脳のエネルギー状態に大きく左右されていたことを明らかにしました。

 

判断力のカギは「脳の糖分」

この背景には、脳のエネルギー源であるブドウ糖(グルコース)の存在があります。

思考や判断、自制心を司る「前頭前野」は、糖分が不足すると機能が低下し、判断が単純化・保守的になりがちだとされています。

つまり、提案やクロージングを成功させるには、相手の脳が活性化している時間を選ぶことが有効なのです。

 

時間帯を制す者が、提案を制す?

この知見は、私たちの仕事にも応用が利きます。

たとえば、

  • 営業提案・クロージング:午前中や昼食後すぐがベスト
  • 社内会議や稟議承認:朝か昼食直後にスケジューリング
  • ECサイトや店舗の販促:判断が鈍る夕方に「つい買ってしまう」仕掛けを
  • OJTや研修:午前中に学び、午後に振り返りをこうした「時間を読む」視点を持つだけで、成果がぐっと変わってきます。

 

もしも不利な時間に提案するなら?

もちろん、提案時間を自由に選べないこともあります。

たとえば、午後5時のような判断力が落ちやすい時間を指定された場合。私が実践しているのは、脳に糖分を届ける小さな工夫です。

すぐに一緒に食べられるような和菓子を手土産にします。たとえば

  • たい焼き
  • 焼き芋
  • 水まんじゅう など

そしてこんな一言を添えます。

「この1時間以内がいちばん香ばしいそうなんです」
「この瑞々しさは、できればすぐに召し上がってほしいと聞きました」

そうすると、相手と自然に一緒に食べる流れができ、場が和みます。そして糖分が脳に届くタイミングから、明らかに反応が前向きになることが少なくありません。

 

自分の都合より、相手の状態に目を向ける

商品やサービスの良さをしっかり伝えたのに、なぜか手ごたえがない。そんな経験があるなら、「いつ提案したか?」を振り返ってみてください。

成果を左右するのは、提案内容だけではなく、提案する“タイミング”にもあるのです。

小さな気配りが、大きな差を生み出す。
「時間帯にこだわること」は、提案の質を高める、最も簡単で実践的な一歩かもしれません
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小林克

小林克(専任准教授)

専任准教授(実務家教員)

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