NIT MOT Letter #100

言語化そして仕事のデザインへの生成AI活用

  • 清水 弘
  • NEW
  • 2025年12月02日

日本工大MOTでは言語化という言葉が良く使われる。また技術経営の技術は、何かをデザインする技術の意味で使うことが多い。この言語化とデザインは日本工大MOTでは身近な言葉と言える。また自分自身が仕事をする上でも、良く使っているスキルを表している言葉だと思う。

日本工大MOTでは言語化という言葉が良く使われる。また技術経営の技術は、何かをデザインする技術の意味で使うことが多い。この言語化とデザインは日本工大MOTでは身近な言葉と言える。また自分自身が仕事をする上でも、良く使っているスキルを表している言葉だと思う。

 

生成AIは我々の思考や活動に大きなインパクトを与えつつあるが、自分自身、生成AIにプロンプトを入力することで、これまでなんとなく使っていたこれらスキルについて、改めて考えるようになった。このレターでは、生成AI活用の一例として、言語化とデザインのスキルについて紐解いてみたい。

 

まずは言語化についてだ。

言語化は、ことがらを言葉として端的に表現する、といった意味で使われている。我々は言葉でことがらを理解しており、そういう意味でも言語で表現することはとても重要だ。

何か新しいことがらを検討する際に、「これはどうゆう事なんだろう」と、うまく言葉に出来ずモヤモヤとした状態になることが多い。「つまりこういうことか」と良い言葉が浮かぶと、このモヤモヤ感が解消しすっきりした気分となる。またその言葉がキーワードになって次々と連想が進み、ことがらについての理解が進展する。皆さんも同じような経験をされたことがあるのではないだろうか。

この言語化のためには、経験の異なる何人かの意見を聞くことが効果的だ。これは、うまく言葉にできずにモヤモヤしていた状態に対し、様々な視点からの意見がヒントとなり、適切な言葉が選択できるようになるのではないかと思う。三人よれば文殊の知恵とはよく言ったものだ。

 

言語化において、生成AIは身近なブレーンストーミングの相手として役立つ。

「これはどうゆう事なんだろう」と思った際に、漠然としたプロンプトでもまず生成AIに質問して見る。生成AIは質問の意図や前提を定め、それに対する説明のストーリーを生成する。質問を、具体的にしたり切り口を変えたりしていると、「つまりこういうことか」に近いストーリーと言葉が見つかる。

次は、それについて三つの異なる視点の人の意見を聞いてみる。アインシュタイン、チャーチルとピカソなどでも良い。これを繰り返すことで言語化を進めることができる。

要注意なのは、生成AIはプロンプトの質問にあわせて、やや迎合的なストーリーを生成するため、一般的なインターネット情報で裏付けをとっておくことが大切だ。

 

次はデザインについてだ。

デザインは、ある目的のための製品や工程の設計や、意匠を表現し形にする、といった意味で使われている。

自分自身は最初に設備の開発やデザインに関わる仕事を行った。ある時、自分達で開発した設備の設計・運転マニュアルを作成することになった。自分にとって初めての経験で、どうすれば良いか皆目見当がつかなかった。先輩の様子を見ていると、その設備がどんな原料からどんな工程で製品を製造しているかの大枠を整理し、バラつきのある原料から期待する製品を得るための各工程の設計や運転方法を定め、それを手順としてまとめてマニュアルを作成していった。

その後も多くの仕事に関わったが、製品、工程や意匠だけでなく、仕事そのものが同じパターンとなっていることに気づいた。すなわち、仕事で期待されるアウトプットに対し、どんなインプットから、どんな工程でどんなことに注意しながら進めるか、そしてそれらをどんな手順で設計し実施するか、などである。これらの項目はあらゆる仕事に共通だ。

 

生成AIは、この仕事のデザインについても対応してくれる。特に生成AIのプロンプトとして、アウトプットの目的、インプットのデータ、インプットとアウトプットの因果関係と目的との関係、どのような手順で検討するか、などを示すと、それを踏まえて驚くほど精緻なストーリーを生成する。ここでは詳細には触れないが、生成AIは原理的にこれらの項目に基づきストーリーを生成しているようだ。これら項目をカバーするため、千字を超えるプロンプトのこともあるが、生成AIは気にせずストーリーを生成してくれる。

仕事のデザインについての漠然としたストーリーが、生成AIによって精緻なストーリーとして生成される。吟味は常に必要だし、人や組織に働きかけ実践するのは人ではあるが、なんでもデザインしてくれるデザイナーの役割を生成AIに期待することが出来る。

 

言語化とデザインのスキルを例に見てきたが、生成AIへプロンプトを示しストーリーが生成されることで、これまでは漠然としたものであったスキルがストーリーとして示せるようになった。特に、生成AIの原理的な特徴を理解して使うことで、生成AIをブラックボックスとせずに活用することも可能となる。人の従来のスキルは生成AIに置き換えられつつ、人は、何か新しいことがらを検討し問いかける、生成AIの結果を吟味する、人や組織に働きかけ実践する、といった役割がより求められるのではないだろうか。

清水弘

清水弘(専任教授)

  • 専任教授(実務家教員) 研究科長
  • ビジネスエンジニアリング株式会社 社外取締役
  • アーサー・D・リトル株式会社(ADL)シニアアドバイザー
  • 日本の中堅製造業の監査役や中国の自動車部品企業のCEOアドバイザー
  • 研究・イノベーション学会会員

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