上司を選べるなら「人」か「生成AI」か?―AI時代に問われるリーダーの「真摯さ」 クラスなどで「上司を選べるなら『人』と『生成AI』のどちらが良いか?」と質問を投げかけることがあります。
クラスなどで「上司を選べるなら『人』と『生成AI』のどちらが良いか?」と質問を投げかけることがあります。現時点では「人」を選ぶ人の方が若干多く、その理由には「感情を通わせたい」「信頼関係を築きたい」「自分自身を多角的に見てほしい」といった声が挙げられます。一方、「生成AI」を希望する人からは、「好き嫌いがなく公正・公平」「仕事以外の余計な人間関係が発生せず気楽」といった理由が聞かれます。「人」と「生成AI」の決定的な違いは、「身体感覚や実体験に伴う意識・感情」や「確率・統計に基づく予測行動」という点にあります。この捉え方の違いが、選択の分かれ目になっているのかもしれません。
令和8年版『情報通信白書』によると、日本で生成AIを「カウンセラー」や「先生・コーチ」と捉える人はそれぞれ12.9%、「友人」は10.9%、「同僚」は4.0%、「家族」は6.2%、「恋人」は2.8%という結果が出ています。一方、諸外国に目を向けると、「友人」は米国で25.3%、中国で39.9%、「家族」も米国で21.5%、中国で22.1%、「恋人」は米国で9.0%、中国で6.6%になっており、日本よりも生成AIを身近に捉えていることが分かります。この差は他国における生成AIの活用頻度の高さに起因しているとみられ、今後日本においても、生成AIを身近な存在と捉える割合は高まっていくと考えられます。
上司の役割という視点に立つと、専門知識の提供、データ処理、資料作成といった面では、すでに生成AIに軍配が上がります。今後、生成AIがより身近になるにつれ、人間の上司には「人間ならではの強み」による差別化が求められるようになります。
P.F.ドラッカーは『未来企業』の中で、「信頼するとは、リーダーを好きになることでも、常に同意することでもない。リーダーの発言が本心であると確信を持てることだ。それは『真摯さ』という古くからの資質に対する確信である」と述べています。人間の上司に求められるのは、まさにこうした信頼関係の構築です。また、同氏は『マネジメント』において、以下のように「真摯さ(Integrity)」の重要性を強調しています。
「根本的な資質である真摯さが必要である。最近は、愛想の良さや面倒見の良さ、人付き合いの良さがマネジャーの資質として重視されがちだが、それだけでは不十分である。実際、成果を上げている組織には、必ずしも親切でなく人付き合いも良くないボスが存在する。彼らは気難しく頑固かもしれないが、誰よりも人を育て、好かれること以上に尊敬を集める。一流の仕事を自他に要求し、高い基準を保ち、『誰が正しいか』ではなく『何が正しいか』だけを考える。決して真摯さより知的能力を優先することはない。」
意思決定の最終判断を人が行う以上、部下からはその人の「真摯さ」が見極められます。そこに誠実さを感じられなければ、「これなら生成AIの上司の方が良い」と考える部下が増えていくでしょう。まさにリーダーとしての本質が問われているのです。
生成AIが組織で主要な役割を担うという変化はすでに現実のものとなっています。NECは、部門長から社員までの役割をAIが担い自律的に業務を遂行する「コーポレートAI・Workforce部門」を新設しました。業務の遂行はAIが担い、最終的な評価や意思決定、ガバナンス統制を人が担うという体制です。
「人」と「生成AI」との上司が役割を分担しながら組織を運営する未来は、すぐそこまで来ています。「今の上司なら生成AIの方がマシだ」と言われないよう、私自身もリーダーシップの研鑽を継続していきたいと思います。