少し前に日本の低賃金が話題になりました。国税庁の調査によると、ここ5年くらいは、上昇傾向にあるようで、ほっとしました(令和2年男女平均435.1万円が令和7年には486.6万円で11.8%上昇しております)。ただ、生活費の上昇に引きずられた形の賃金上昇と人手不足による上昇という外部要因が強く、国民の手取りは増えていないようで、今後が心配です。なぜ、安心できないのか、我々が講義で教えている技術経営の視点のひとつである付加価値で見ていきたいと思います。
獲得した価値を給与、設備投資へ
少し前に日本の低賃金が話題になりました。国税庁の調査によると、ここ5年くらいは、上昇傾向にあるようで、ほっとしました(令和2年男女平均435.1万円が令和7年には486.6万円で11.8%上昇しております)。ただ、生活費の上昇に引きずられた形の賃金上昇と人手不足による上昇という外部要因が強く、国民の手取りは増えていないようで、今後が心配です。なぜ、安心できないのか、我々が講義で教えている技術経営の視点のひとつである付加価値で見ていきたいと思います。
付加価値とは、即ち、加えられた価値です。技術経営では、価値を産み出すだけではなく、それを獲得ことがとても重要です。新しい技術革新(価値の創造)を起こしても、その技術を商品化して、買ってもらえないと価値を獲得、マネタイズすることが出来ません。
例を見ていきましょう。洋服を作り、販売する場合は、布生地と糸を買ってきて、切って縫製する。布生地、糸は原材料で、付け加えられた価値は、切断と縫製になります。生地だけでは、役に立たないですが、洋服になると、保温、保湿、肌触り等の機能性、ファッション性が付加されます。布生地だけですと数百円のものが、切断、縫製をされた商品として数千円、デザインが良ければ数万円、ブランド品だと数十万になるかもしれません。付加価値は、市場から見ると、顧客が支払っても良いと思う価格(顧客の支払意思額:WILLINGNESS TO PAY)から掛かった費用(COST)を引いたものになります。粗利、会計学では、売上総利益という難しい言い方もします。
原材料である生地、糸、人と設備が行う切断・縫製の加工を合わせた費用が千円で顧客が払っても良いと思う価格が1万円だと、9千円が付加価値になります。この9千円の付加価値を因数分解すると、会社の利益と人件費と設備費用(減価償却)になります(*注1:付加価値額=営業利益+人件費+減価償却額、少し難しいので、興味のある方は、公開講義に参加下さい)。粗利の高い、付加価値の高い製品・サービスを提供できれば、利益も増え、従業員にも給料を多く支払うことが出来、設備投資も出来ることになります。
仕事柄、沢山の会社のコンサルをしており、粗利、売上総利益率、付加価値率を重視して、ビジネスが上手くいっているのかを分析しますが、当方は、この粗利率、付加価値を重視しております。製品・サービスが、市場で認められているのかどうかの指標になるからです。経営が良い会社は、製品・サービスを高く評価してもらっており、高い付加価値を維持し、従業員へ報い、設備投資をするという正の循環を愚直に実践しております。これを付加価値経営と呼びます。実践している、皆さんも知っている大きな、有名な会社では、日本を代表するトヨタ自動車があげられます。
日本はコストダウンが好き?
日本企業は、製造現場が強いので、他国企業と比べると安く製造をすることが出来、お客さんも安く買いたがるので、折角、安く作ったものを安く提供してしまう傾向が今でもあるように思えます。コストに少額の利益を乗せて値決めをし、販売してしまうケース。とても多いです。コスト積み上げ方式による値決め。一見正しそうですが、これは、付加価値経営の観点からすると、大きな間違いです。顧客が受け入れられる価格より安く販売してしまうと、売手にとって、利益の逸失を意味します。薄利で販売すると、会社の利益が少ないだけではなく、従業員の給与も上げられませんし、新規設備投資も出来ないので、従業員はやる気をなくし、効率も下がり、設備投資も出来ないので、品質低下、生産効率も下がり、会社は縮小均衡に向かっていきます。一部の中小製造業で見かける光景です。
高く売る努力
では、実際に、お客さんが提供する製品、サービスにどれだけの価値を認めてくれるのか、受け入れてくれる価格水準はいくらなのか。お客さんの頭の中を見ることは出来ないので、分かりませんよね。どうすればよいのでしょうか。それは、交渉をすることです(サービスだったら仮の価格で一度試す、試行錯誤をすることになります)。
交渉の最初の段階では、相手の情報は全くありませんが、交渉をすることで、お客さんの受け入れが出来る価格、何を期待しているのか、困っていることは何か、他競合の情報等を入手することが出来ます。専門的な言葉でいうと、初期段階での情報の非対称性は、交渉をすることで徐々に緩和されていきます。価格情報や顧客が評価して点を理解することで、高く売る環境が整ってきます。
また、交渉の際には、自社の製品・サービスの良さを伝える必要があります。この加工には、すごく時間がかかり、熟練工の高い技術が必要であることやこの製品を使うと最終製品の品質向上に大きく貢献すること等をきちんと伝えないといけません。短納期も重要ですね。相手に、製品・サービスの価値のすばらしさ、効果を理解してもらう必要があります。すごい技術で加工しているのに、多くを語らず、製品を黙って納入、サービスを提供していませんか。
経営者がやらなければいけないこと
交渉は、お客さんに嫌がられることもあり、交渉を嫌がる社長さんは多い。しかし、付加価値を上げることによって、従業員の生活を守り、設備投資をすることで会社の成長を実現できます。会社を成長させるためには、付加価値を上げて、従業員を守り、投資をしていかなければならず、これは、経営の仕事。社長、経営者がやらなければいけないことです。有名な経営者である京セラの稲盛和夫氏がいう「値決めは社長の仕事」は、当に、その通りだと思います。稲盛さんも付加価値経営を理解、実践されていたのですね。
日本工業大学大学院技術経営研究科では、こうした実務に活かせる実践的な経営のセオリーを学ぶことが出来ます。大学院は、オープンキャンパス、模擬授業や1科目無料のチャレンジ履修を用意しております。現在、経営に閉塞感を感じて悩んでいる経営層、管理職、将来の管理職候補の方は、是非、一度、当大学院をのぞいてみてください。
*注1
付加価値(製造業)= 営業利益+人件費+減価償却費
付加価値(商業)= 売上 - 仕入
総合商社鉄鋼部門の国内営業から出発し、中国駐在、プラント営業、機械メーカーの中国営業企画と中国地域統括、医薬品原材料の販売、専門商社での経営企画・関連企業管理・M&A実施等の幅広い業界、業種での経験があります。また、個人では中小企業診断士として、M&Aのアドバイス、経営支援も行ってきました。業界、業種、社内外と多岐に渡りますが、30数年、常に中小製造企業と一緒にビジネスをやってきました。
長く中小企業、特に製造業と接していて、このところ中小企業の置かれている経営環境が大きく変りつつあることを実感しております。変化は、ある企業にはチャンスですが、ある企業には、大きなリスクになります。実際に、業績を伸ばしているところと存続の危機にある中小企業に二極分化しているように見えます。
日本工業大学MOTでは、当方が見てきた成功事例を、理論、先行研究に結びつけてモデル化して、受講生の皆様のビジネスに役立つようにしていきたいと思っております。
1年という短い期間ですが、今後のビジネス人生をより豊かにするための勉強を一緒にしていければと思います。