NIT MOT Letter #103

必然と曖昧さのあいだ -技術はなぜ競争力になるのか-

  • 浅見 哲也
  • NEW
  • 2026年10月13日

科学の探究における行為の本質の一つは、原因と結果の間に存在する必然性を探究することにあります。観察された現象に対して「なぜそうなるのか」を問い、その原因を明らかにし、原因と結果を結ぶ規則性を見いだす。とりわけ自然科学では、前提条件を限定することによって、原因と結果の関係を高い精度で記述することが可能になります。

科学の探究における行為の本質の一つは、原因と結果の間に存在する必然性を探究することにあります。観察された現象に対して「なぜそうなるのか」を問い、その原因を明らかにし、原因と結果を結ぶ規則性を見いだす。とりわけ自然科学では、前提条件を限定することによって、原因と結果の関係を高い精度で記述することが可能になります。

私は1980年代から半導体の研究開発に携わってきました。半導体の世界では、材料、構造、寸法、温度、電圧、プロセス条件などを定量的に規定し、「こうすれば、こうなる」という因果関係を明らかにするための活動を繰り返してきました。もちろん、現実にはさまざまな変動要因が存在します。そのため、前提条件を限定しながら原因と結果の関係をより高い確度で説明し、それを繰り返し、知識として蓄積していきます。その結果として、性能や品質を向上させ、製造における歩留まりを高めてきました。これらを探究することはエンジニアの重要な役割であり、同時に事業が技術者に求める成果の一つであると言えます。

一方、現在、私が研究している経営工学、すなわち社会科学の世界では、原因と結果の必然性を同じように記述することは容易ではありません。そこには空間的な関係性だけでなく、時間的な広がりが存在するからです。国や地域、競争環境、組織、顧客、さらには時代が異なれば、同じ原因が必ずしも同じ結果をもたらすとは限りません。さらに、その知識が広く知られると、人や企業はそれを学習して行動を変えます。その行動変容が新たな要因として加わることで、それまで観測されていた原因と結果の関係そのものが変化することさえあります。そのため、社会科学で見いだされる因果関係は、一定の条件下における蓋然性として示されている様に思います。

しかし、自然科学も社会科学も、ともに「科学」です。「こうすれば、こうなる」という原因と結果の関係を探究する立場に違いはありません。ところが最近、私は自身の研究を通じて、この因果性の探究そのものに、一つのパラドックス、すなわち相互依存しながら持続する矛盾が存在するのではないかと考えるようになりました。

それは、知識における「必然」と「偶然」が産業的に持つ効能と、その境界に関する問題です。

製造業では、品質、性能、歩留まりを向上させるために実験を行います。一度の実験によって得られた経験知に対して、さらに二次、三次の実験を重ね、その因果関係の必然性を高めていきます。それは、いわば経験知を科学知へと昇華させていく過程です。そして、その過程で経験知は、言葉、数値、図表、方程式などによってコーディファイされ、他者にも理解可能な知識へと変換されていきます。

ところが、その因果関係が明らかになり、知識としてコーディファイされた瞬間から、別の力が働き始めます。知識は伝達可能となり、組織内外へ移転し、他者による学習や模倣が容易になります。競争戦略の視点から見れば、それまで企業の競争優位を支えていた知識の希少性や模倣困難性が低下する可能性が高まるのです。

すなわち、競争優位を生み出すために進めてきた因果の探究が、同時に、その競争優位を失わせる可能性を内包している。科学的探究によって「必然」を明らかにすることが価値を生み、その必然が明らかになることによって、その価値が他者にも利用可能になる。この関係が、私には一つのパラドックスとして見えます。

もちろん、だからといって、科学的な探究を止めるべきだということではありません。むしろ、日本の若い技術者には、これまで以上に「なぜそうなるのか」を問い続け、原因と結果の関係を明らかにする努力を続けてほしいと思っています。

その一方で、競合がひしめき、技術競争の激しい産業において、高い競争力を持ち、それを長期間維持している企業を見ていると、それらの企業には、理論や法則として完全には科学知へ昇華されていない、企業固有の曖昧な知識が残されています。経験、暗黙知、組織内の相互作用、そして長年にわたる試行錯誤。それらが組み合わされることで、外部から見れば曖昧でありながら、その企業の内部では「こうすれば、こうなる」という限定的な必然性を持つ、固有の知識体系が形成されているのではないでしょうか。

科学は「なぜ」を解き明かし、偶然を必然へと近づけようとします。技術者としての私は、その探究をこれからも肯定し続けたいと思います。しかし、経営研究者として企業の競争優位を見つめると、すべての偶然を必然へと変え、すべての知識を説明可能にすることだけが、企業の強さではないようにも思えます。必然を追究しながら、その先になお残る曖昧さを、自らにしか使いこなせない競争力へと昇華する。そこに、半導体をはじめとする製造業を基盤として、日本がハイテク産業国として再び飛躍するための、一つの鍵があるように感じています。

皆様、共に、できることからひとつひとつ頑張って参りましょう!

浅見哲也

浅見哲也(専任教授)

・専任教授(実務家教員)
・(株)Imaging Device Technologies  代表取締役社長
・(株)SensAI  会長

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