NIT MOT Letter #7

「知行合一」と「草莽崛起」

  • 平川 淳
  • 2016年09月01日

日本が史上最高のメダルを獲得したリオオリンピックが終わり、寝不足も解消されてほっとしている人も多いことでしょう。私もオリンピックを目指していた一人として、鍛え抜かれたアスリートがその限界に挑む姿を見て勇気づけられるともに、健闘及ばず涙をのんだ選手にも拍手を送りたいと思います。

オリンピックで活躍している若者をみると「今の若い者は」という常套句は軽々には使えません。むしろ麻雀ばかりしていた私たちの大学生時代より今の大学生はまじめだと感心します。まじめすぎて少し物足りないような気もしますが。とかく、今の若者は「ゆとり世代」「草食男子」「肉食女子」などと揶揄されますが、私は若者の本質が我々のころと大きく変わったとは思いません。我々世代も「ゆで蛙世代と言われていますから。ただ我々世代と違うのは、我々世代は、未来は今より必ず良くなるというぼんやりとした希望があったことです。ですから少々無茶をしてリスクをおかしても何とかると思って思い切ったことができました。企業も社会も今よりずっと寛容でした。いまの時代は将来に希望が持てないと思っている若者は多いように思います。マスコミも政治家やタレントのゴシップを重箱の隅をつつくように掘り起こし、少しでも付け入る隙があれば鬼の首でもとったように騒ぎたてる。世知辛い世の中になってしまいました。そんな世の中でもオリンピックに限らずいろんな分野で活躍している多くの若者をみると、まだ世の中捨てたものではないと希望が持てます。

私は、日本工業大学大学院技術経営研究科と地元香川の香川短大で起業に関するテーマで教鞭をとっていますが、常に心掛けているのは、学生の心に火をつけることです。知識やノウハウを教えるのではなく、自分の人生は自分で切り開く志を持ってもらうようにすることです。そして、大学で習ったこと、習得したノウハウは必ず実践で活用しなければならないと思っています。陽明学でいう「知行合一」=「知(知ること)と行(行うこと)は同じ心の良知(人間に先天的に備わっている善悪是非の判断能力から発する作用であり、分離不可能であるとする考え)」。講義を通じて習得した知識ノウハウは企業において活用して初めて役に立つということです。オリンピックの選手も今は科学的なトレーニングだけでなく、戦略・戦術、栄養学、人体構造学、メンタルトレーニングなど知識やノウハウをフル活用し戦いに臨んでいます。選手の寿命が飛躍的に延びたのもこのようなトータルトレーニングの成果といえます。われわれ世代の根性論、無茶なハードトレーニングの時代とは隔世の感があります。まさに知行合一が学問、経営、だけでなくスポーツの世界でも活用されるようになってきました。

どんな時代でもスポーツに限らず時代を切り開くのは若者です。未熟でもいい、高い志を持って自立してほしい。自分の進む道を切り開いてほしい。昨年の大河ドラマ「花燃ゆ」は幕末の思想家吉田松陰の妹が主人公でしたが、吉田松陰が、時の幕府、長州藩の無能ぶりに幻滅し、新しい人材を育成しようと作ったのが「松下村塾」です。その松下村塾の設立理念は「草莽崛起」=「草莽(世に出ていない在野にいる志のある若者)崛起(立て)」ということです。まさに、今の時代に必要なのはこの「草莽崛起」ではないでしょうか?日本の起業家率は先進国中最下位です。これからの日本の成長を支えるのは、若くて創造性・独創性に富んだ起業家です。日本にも第2、第3のビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブスのような人材が生まれることを期待しています。志のある若者にはぜひ起業してほしいと思います。

私が学生時代には「若者よ、書を捨て、街に出よう」という言葉がはやりましたが、今の時代「若者よ、窓を開けよう、世界は広い、世界に飛び出せ!」という言葉をかけたいと思います。大志をもって世界に羽ばたく若者が沢山でることを期待しています。

次号(No.8)は浪江一公教授が執筆予定です。

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