NIT MOT Letter #43

働き甲斐改革の勧め

  • 水澤 直哉
  • 2019年12月10日

Digital TransformationやBig Bang Disruptionに代表される外部環境要因が、益々時代の変化を加速している。正に、VUCAの時代、今までの仕事の進め方やマネジメントに対する価値観が、時代の変化の中で不適合になり、過去の成功体験こそが成長の制約条件になっていたり、“自社内部の常識が顧客の非常識”となる状況に陥る可能性が増している。

VUCAの時代の下でのマネジメント上の課題:

Digital TransformationやBig Bang Disruptionに代表される外部環境要因が、益々時代の変化を加速している。正に、VUCAの時代、今までの仕事の進め方やマネジメントに対する価値観が、時代の変化の中で不適合になり、過去の成功体験こそが成長の制約条件になっていたり、“自社内部の常識が顧客の非常識”となる状況に陥る可能性が増している。顧客欲求の本音の進化のスピードの方が、内部の意識変革のスピードよりも早い時代となり、今までのやり方の踏襲こそが、事業を危うくすると言っても過言ではない。この様な状況の下、今まで培って来た組織風土や企業文化に安住する事無く、そこから果敢に脱却し、徹底した顧客視点で新たな価値を生み出す“変革型経営リーダー”

Transformational Business Leaderとして活躍する事が、仕事のプロへの時代からの要請となっている。

ところが、多くの職場の現実は一歩間違うと、“お客様の為”と言いつつも、知らず知らずの内に顧客不在の内部基準に陥り、忙しい事を言い訳に“当面、当面、また当面”と目先に起こった緊急度の高い問題に状況対応する事に振り回され、本来の目的を見失い、手段の目的化に陥ってしまう可能性がある。組織の中核に内向き志向の強い磁石が存在し、頑張れば頑張るほど、内部志向への負のスパイラルの“慣性”に陥って行くのである。そして、お互い何らシナジーを生まない個別最適的な意思決定をバラバラに行い、場当たり的な日常の職務執行となりがちである。一生懸命に取り組めば取り組む程、近視眼的となり、あたかも自らの担当職務中心に世の中が動いているかのような錯覚に陥り、目先の作業に埋没する事となる。“資源の有限性”は経営の大前提である。それを言い訳にして、状況対応的なマネジメントに身を任せていては、そのリスクから中々脱却できないのは自明の理である。経営リーダーにとって、“忙しい”と“足りない”の言い訳は禁句で、寧ろそれを前提に、どの様な新たな価値を創造して行くのか、ここに経営リーダーとしての力量と手腕が試される訳である。

その中で、働く人々の現状は?(職場の現実から実感される働く人々の現状に関する考察)

その中で、働く人々の現実は、職場では益々多忙を極め、閉塞状態の中で高い目標の達成に向け、疲弊しつつも真剣に職務に取り組んでいる。また、経営の質を高める為、欧米流の経営施策が導入されるケースも多いのが実情だが、精緻な仕組みが導入されればされる程、その管理運営コストが増大し、本来の導入の目的が見失われ、仕組みを何とか回すことだけが暗黙の目的に摩り替わってしまうケースも多いと認識している。

ここからは、私自身のビジネス経験と企業経営幹部育成支援の取り組みから導き出した一つの仮説であるが、かかる状況下、組織で真面目に働く人々が、一歩間違うと、いわゆる“疎外”(Estrangement: Alienation=人間が作ったものに使われ、本来の自分を活かせなくなる事)状態に陥り、何とか職務上の役割は遂行するのだが、多忙と閉塞の中、本来の自分を見失い、組織上の役割が自身の人格に化けてしまう状況が加速していると実感している。真の自分の表現を失い、組織の都合や役割が知らず知らずの内に優先され、自らの存在も対象化し(哲学の言葉で表現すれば“存在者”になってしまっている)、組織に従属させ、また、その方が心地よいと感じてしまう魔のループに陥っているとの懸念を、私は抱いている。そうだとすれば、一生懸命働けば働く程、真の自分を喪失し、人としての内面の豊かさを犠牲にしている事になりかねない。

但し、資本を成長させる為に資本を再投資し、“自由競争”の大原則の下、弛まない差別化努力を通じ利潤追求して行く資本主義経済に於いては、資本を増やせる人材と仕組みが優先されるのは、ある意味で、やむを得ない事である。従って、一歩間違えば、企業が頑張れば頑張る程、新たな施策を導入すればする程、多かれ少なかれ、個人レベルでは“疎外”状態が深まって行くという矛盾との葛藤の中で、多くの人々は日々生きているとも言えるのである。即ち、日々の職務に忠実に、真剣に取り組めば取り組む程、真面目であればある程、自らの魂が内側から抜かれ、自分の人生の目的を見出せない言わば“アノミー(Anomie)”状態に陥るリスクが高まると思われる。更に、そのプロセスに身を委ねる事に寧ろ快感を覚えてしまい、それが自分の本質であると見誤ってしまうという現実もあるように思う。本当の自分が見えなくなり、活かされていない事は感覚的に判るのだが、どうすることも出来ず、結局は、体制に従っている方が楽になり、益々疎外状態が加速する結果となる。本当の自分が活かされていない事に、無意識ではあるが“苛立ちを覚え”、しかし、どうする事も出来ない閉塞感の中で、人によっては、内面の奥深い所で“真の自分を生きていない悲しみ”を感じていると映る。それにも拘わらず、その現実を認めたくないとの心理状態の下、より一層日々の職務に頑張り、更に深い疎外状態に陥って行く、そんな負のスパイラルに入っている側面も痛切に感じている。究極的には、ドイツの哲学者マルティン・ハイデガー(1889年~1976年)がその著書「存在と時間」(“Being and Time”)(1927年)の中で顕している、言わば、

“頽落的な生き方“(Verfallen)へ陥り、未来の可能性に目を向ける希望を喪失し、平均的日常性に埋没する事となる。自らの存在の実現や可能性の開花から目をそらし、不可能性が当たり前となり自らの可能性に諦めが生まれ、希望の無い社会閉塞状況が生み出されているとも感じる。Fixed Mindsetが当たり前になり、社会に虚しさが蔓延し、Growth Mindsetの喜びが実感出来なくなっているかのようである。

しかしながら、だからといって、資本主義を否定する立場に立つという単純なスタンスでは、現実社会は何も変わらないし、変えて行けないと思量する。だからこそ、私は、その矛盾を正しく理解し、その矛盾が起こりうる事を前提として、一人一人の経営リーダーが真の自分を生きて行く事(真の自分を認め、生き始める)を、徹底して支援する取り組みに挑戦し続け、そのミッションを探求する事に自らの存在意義があると確信している。

”働き甲斐改革“の進め(問題解決者から価値創造リーダーに)

上記の状況から脱却する為の重要な施策は、“働き方改革”に留まる事無く“働き甲斐改革”を徹底する事だと確信している。自分は何のために仕事をし、自らの存在を賭けて何を実現したいのか、徹底的に自問自答する事をお勧めしたい。正に、自らの存在意義や志を(広い意味での、“Purpose”)明らかにする事である。頽落的な平均的日常に埋没していると、日常の作業が目的となり経験則に由来する自己の慣性で仕事を回す事が常となる。自らの可能性の開花の喜びは実現できない奇麗ごとに朽ちてしまうのである。今までの常識にブレークスルーを起こしつつ新たな未来を拓きたいという純粋本音のエネルギーや、留まる事を知らないバイタリティーが生命の根幹から湧き出て来ない。これでは、本当の意味で、“真の自分”を活かしきり、常に新たな動きを創る事に依って活き活きと限界突破して行ける“自由な生き方”は実現出来ないであろう。

その為には、自分だからこそ生みだせる“価値”は何か、一貫して自問自答を繰り返すことが肝要だ。そして“本来の自分は何者なのか?”純粋本音で問う事が要であろう。かつては、役割は“演じる”もので本当の自分と分けて仕事をする事が当たり前であったように思える。その結果、仕事は出来るが、場合に依っては自らの存在にうそを付き、本来豊かな人生が、お金だけ貰って平均的日常性に安住する生き方になってしまうのだ。そこからの脱却に向け、正に自らの本音と存在意義にしっかりと目を向け、“Thine own self be true”(Be true to yourself)、真の自分を”Authentically”に活かす事が重要だ。Self-Compassionを大切にしつつ、自らの存在をそのまま素直に受け止めれば、それが周囲への影響力の輪の拡大となろう。そして、顧客課題の解決に留まらず、社会課題の解決に向け自らの存在や仕事が“Authentic”に繋がっているというミッションが自分の言葉で表現出来れば、活き活きと真の自分を活かして仕事の成果を上げて行ける価値創造型リーダーになって行けるはずである。問題解決者に留まらず、課題解決者へと飛翔し、さらには自己実現の欲求の充足に留まらず、“自己超越”の喜びを実感する事こそが、新たな時代を拓いて行く原動力となり決め手となると確信している。そして、職場でOJTを通じた部下育成を遂行する際にも、経営リーダーの皆様は、是非とも部下の方々と熱く語り合い、問いかけて欲しいと期待している。

水澤直哉

水澤直哉(客員教授)

  • 専任教授(実務家教員)
  • 有限会社フィロソフィア(企業の経営幹部育成事業) 代表取締役

次号(No.44)は 小田 恭市教授 が執筆予定です。

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