NIT MOT Letter #54

「もやもや感」と「わだかまり」

  • 小田 恭市
  • 2020年12月16日

私の好きな映画の一つに「夢」(黒澤明監督)があります。この映画は8話からなるオムニバス形式の映画であり一つ一つは完結していますが、映画全体のストーリーは自分で考えるものとして設計されているように思われます。私は、この映画を見て以来、自分なりに何らかのまとめが出来ず、30年を経ても心の隅に何かしらの「わだかまり」が残っています。

 私の好きな映画の一つに「夢」(黒澤明監督)があります。この映画は8話からなるオムニバス形式の映画であり一つ一つは完結していますが、映画全体のストーリーは自分で考えるものとして設計されているように思われます。私は、この映画を見て以来、自分なりに何らかのまとめが出来ず、30年を経ても心の隅に何かしらの「わだかまり」が残っています。この「わだかまり」は自分自身の財産となってとりわけ役立っているわけではないようですが。

 本年は、新型コロナ感染で行動よりも思考の時間が多くなるなかで、近年に思っていた「もやもや感」が高まってきています。その中心は、情報通信技術の飛躍的な発展と、人と人との関係性についてです。この「もやもや感」を少しでも見える化して「わだかまり」になるまでに熟成出来ればよいと思っています。そこで、この年の瀬に、自分の「もやもや感」に関するとりとめのない話を思いつくまま描くことによって見える化し、正月の「ダラダラした生活」の中で「わだかまり」になるまで考えてみたいと思っています。

 

<個人の思いとネットワーク形成>

 比叡山延暦寺の「不滅の法灯」は、最澄が「明らけく 後の仏の御世までも 光りつたへよ 法のともしび」との願い込めたものとして後世に伝えられてきました。「不滅の法灯」は1200年以上も灯を絶やさないで現在に受け継がれてきたとも言われています。

 ところで、灯は絶やさずに受け継がれてきたのは、灯に油を注ぐ担当者を決めるなどの分担制ではなく、油が無くなりそうだと気づいたお坊さんがその都度に油を注ぐといった「しくみ」があるからだとも言われています。この「しくみ」には、最澄の願いを後世に伝えたいとするお坊さん一人ひとりに共通する強い「思い」があったようです。

 浅学な私は、ともすれば、この油を注ぐ「しくみ」を成り立たせるためは、油を注ぐお坊さんを分担制にして切れ目なく繋げばよいといった一見合理的な分担論を持ち出してしまいがちです。この分担論では、お坊さんに油を注ぐ行為を「義務」や「責任」を負ってもらうとともに、御坊さんの不測の事態に備えて二重、三重のバックアップ体制を用意しておかなければなりません。また、しくみがあったとしても、実際に運用するのは人です。運用する人によって、しくみが機能しなくなることはよくある話です。

 MOTのホームページが5年ぶりに刷新されました。新たなホームページでは、マーケティング機能が強化されるとともに、パソコンだけでなくスマホでも対応可能、見やすいレイアウトやデザイン、などがいろいろと考慮され魅力あるものとなっています。このホームページを魅力あるものとして持続させるためには、頻繁な情報更新による情報鮮度の維持が不可欠です。「不滅の法灯」を踏まえると、教職員の役割・分担の明確化は言うまでもなく重要でしょうが、教員一人ひとりがホームページに託す「思い」を深めるとともに、それらを共有してホームページ更新に積極的な参加意識を持つことが必要かもしれません。

 

<弱結合とネットワークの脆さ>

 自動車や家電などの大手組立企業は、合理的な生産を行うため下請関連企業を巻き込んだ生産集団を形成しました。その生産集団は大手企業を頂点にした生産ピラミッドであり、効率的な生産に大きく貢献しました。大手企業はその生産ピラミッドをより強固にするために系列化(下請関連企業の取引先の多角化に対する強い制限など含め)を進めました。一方、中小企業は小規模性がもたらす課題を克服するために、中小企業が束となって規模の利益を享受できるよう組合等の組織形成を進めました。中小企業が束になることによって、共同仕入れ、共同受注などを可能にしました。

 系列や組合などの組織は強結合であり、強固な固定した繋がりを前提にした「運命共同体」的な組織としての性格を持っていました。この組織を強化するため、資本的繋がり、人的繋がりの強化が進められました。しかしながら、ITを中心とした技術革新、産業活動のグローバル化、国内市場の成熟化などが進む中では、規模拡大を背景にした「運命共同体」的な組織は合理性を失い、崩壊、弱体化へと進んできました。

 近年、従来市場の成熟化が進む中で、我が国の大手企業のみならず中堅・中小企業においても、新市場の創造、技術革新への対応などは喫緊の課題となってきています。こうした課題対応には、自社の経営資源だけでは限界があり、社外の多様な経営資源との連携が求められるようになりました。この社外の経営資源の活用には、従来の強結合的ではなく、弱結合的な繋がりが必要です。弱結合は日常的にはこれといった連携はないものの、「必要な時に必要な相手と連携できる」ことが基本となります。弱結合を円滑に進めるためには、自らの自律化・自立化とともに、連携する相手との強い信頼感、価値観の共有などが不可欠となり、両者の間には「心の繋がり」があることが必要条件になっているように思われます。この弱結合の基盤があってからこそ、産学連携、産産連携など多様なビジネス連携が円滑に進むものと考えられます。

 MOTにおける教員と修了生、修了生間の関係は弱結合のようなものと思われます。修了生がビジネス、人生などで困ったときに相談できる重要な相手の一つにMOTの仲間が挙げられるかもしれません。この背景には、修了生の多くはMOTでの1年間の学生生活で弱結合が形成されていることが挙げられるようです。ただ、そこで形成された信頼感、価値観の共有が失われれば、弱結合の関係性は無くなり繋がりは自然消滅してしまいます。形成された信頼感、価値観の共有の定期的なメンテナンス努力が必要とも思われます。

 資料:「ネットワーク型新事業創造論」(小田作成)より引用

<ICTと対面のネットワーク・コミュニケーション>

 近年における情報通信技術の発展には驚くばかりです。新型コロナウイルス感染拡大によって、今迄、他人事と思っていたオンラインを活用した授業や打合せ、在宅勤務などが私の日常生活の中で当たり前のものとなってきました。おそらく新型コロナウイルス感染が収束したとしても、このオンラインを活用した新たな日常生活は、更に進化を遂げることが予想され、決して後戻りすることは無いように思われます。

 私事の経験で恐縮ですが、私は4月からMOTではオンライン授業を行ってきました。全く面識のない受講生、顔の見えない受講生に対して、パソコン画面に向かって話しかけるというのは、経験したことのないことでした。話すことを特技としない私にとってはハードルの高いものであって、少しでも受講生の意見を共有できるように、受講生の考えを文字や図で表現、伝えたいことをイメージ図で描くなど、ホワイトボードをプラットホームとし、喋り言葉を文字・画像情報として残して印象を強めるなどに努めました。

 7月に学士会館において夏学期のオリエンテーションでリアルに院生と初めて顔と顔を合わせて話すことが出来ました。話すと言っても自己紹介的なもので多くの院生とじっくり話す機会はありませんでしたが、院生と同じ会議室で同じ空気を吸いながら、院生のコメントに共感する程度でした。しかしながら、その後のオンライン授業では、パソコン画面から見る受講生の顔、声が従来に比べて格段にリアルに近づいているような変化を感じました。なぜ、そのように思えたのか、具体的な因果関係はわかりませんが、リアルな対面が心に何らかの変化をさせたようです。

 近年、いろんな場所で今迄面識のない仲間がSNSで知り合いになって、チャット等でコミュニケーションがとられています。そこでは、ちょっとした言葉遣いや言い回しが原因で「炎上」と言った状況が生まれているようです。「炎上」の背景には、チャットは文字として残るため聞き流すことが出来ないといったこともありますが、面識のない仲間では心の繋がりが薄いこと、仲間において参加している一人一人の性格を相互に知っていないことなどがありそうです。逆に、顔と顔を合わせた密なコミュニケーションを行う仲間であれば、SNSでの「炎上」が起こりにくくなるような感じがします。

 MOTでは次年度から本格的に対面授業とオンライン授業を一体的に行う複合授業を行います。受講生は、状況に応じて対面授業、オンライン授業の何れかを選択して受講できるようになります。ともすれば、受講生は通学の必要がないオンライン授業を選択するケースが多くなるように思われます。対面授業における受講生や教員が顔をあわせることによる直接的・間接的な効用を理解して、対面授業を選択する受講生が多くなることを期待したいと思います。当然ながら、授業を担当する教員も対面授業の魅力を一層高めることも求められます。院生が顔を合わせコミュニケーションすることによって、院生相互の信頼感、院生が持つ価値観の共有化を高められることが出来れば、MOTにおいて学ぶことに大きな価値が生まれるような感じがします。

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資料:「ネットワーク型新事業創造論」(小田作成)より引用

 当初は、映画の「夢」を参考に5つ程度の「もやもや感」を予定していましたが、締め切りに対応できるような能力がなく、3つで終えることとします。正月の「ダラダラした生活」の中で、この3つの「もやもや感」を「わだかまり」に醸成できるように思索を深めたいと思います。今後、高まる情報化社会では情報化スキルだけでなく、一人一人の「心」のあり方が問われるような気もします。

小田恭市

小田恭市(専任教授)

  • 専任教授(研究者教員) 研究科長
  • 学校法人日本工業大学 評議員
  • 株式会社開発計画研究所 取締役
  • 公益社団法人日本経営工学会 会員

次回(No.55)は 三宅 将之 教授が執筆予定です。

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