NIT MOT Letter #79

「何ができると MOTを学んだと言えるのか」 基本活動としてのひとつの回答

  • 清水 弘
  • 2023年03月29日

表題の「何ができるとMOTを学んだと言えるのか」は院生から時々質問されることだ。MBAも経営はもちろんイノベーションにも取り組んでおり、MOTと共通部分が相当ある。MOTの特徴は、技術の可能性に気づく視点を持ち、具体的に製品・サービスを構想し、無形な技術を蓄積活用し価値提供につなげる、一貫した基本活動にあると考えている。授業を通じて感じた3点について紹介したい。

 日本工大MOTでは3月18日に18期(2022年度)の修了式があった。毎年何か新しいことにチャレンジしたいと考えているが、18期では「技術戦略と技術マネジメント」という科目を担当することができた。 
 筆者は日本工大MOTの教員を10年以上勤めているが、ずっとMOTを「技術とイノベーションを活かした経営」と解釈している。この間イノベーションの重要性は高まりつつも基本の考え方は変わっていない。技術については筆者の関心の項目だけでも、DX(デジタル)は言うまでもなく、SX(サステナビリティ)での新しいエネルギー源と素材生産へのシフト、BX(バイオ)により医療の革新に加えて脳科学のビジネスへの適用等、技術が3つのX(3X)として社会や暮らしへインパクトを与えている。さらに新しい世界観が形作られている。この科目ではこんな変化をふまえた、技術の戦略やマネジメントを考察することにトライしてみた。
 実際の授業は、3Xでの典型的な製品・サービスを化学・材料、機械、電気電子、情報通信・ソフトの4つの技術の基礎知識で解釈し、ゲスト講師等の事例に基づいて皆でディスカッションし理解を深めた。受講生はこれらを踏まえ、後述の市場・技術のマッチと製品・サービスのバラシ手法を活用し、自社・自分の製品・サービスを構想した。  
 表題の「何ができるとMOTを学んだと言えるのか」は院生から時々質問されることだ。MBAも経営はもちろんイノベーションにも取り組んでおり、MOTと共通部分が相当ある。MOTの特徴は、技術の可能性に気づく視点を持ち、具体的に製品・サービスを構想し、無形な技術を蓄積活用し価値提供につなげる、一貫した基本活動にあると考えている。授業を通じて感じた3点について紹介したい。   

 1つ目の「技術の可能性に気づく視点を持つ」は、小さくとも新しいことを行っているという意識と、何か新しいことを考え行うWhat感を持つことの2つだ。
 仕事の問題解決について見てみよう。問題解決は、目標が決まっていてその達成に対し発生した障害を解消する場合と、あるべき姿や新たな目標を設定しその実現の障害を解消する場合の2つに分けられる。 
 発生した障害の解消はどうしても受け身の姿勢となる。実際に新しい道具や仕組みを企画・設計して取り入れていても、それが自分達の技術であることやその応用の可能性に気づかない。さらに皆さんの専門性が高く、この程度は当たり前となっていることも影響する。まずは既に新しいことを行っているという意識を持つことが大切だ。新しさという別な尺度で物事を見ることで技術とその可能性に気づく。
 その上でなぜこの問題が発生したかを、直接の障害とその原因だけでなく、世の中と顧客ニーズの変化や自社の状況変化なども含め広く捉えることを行う。これらで新しい道具や仕組みの企画・設計の技術が、顧客への提案や自社の状況打開へ応用できる可能性が加わる。 慣れてくると自ら問題を設定できるようになる。例えば3Xの自社・自分への機会と脅威はどのようなものか、といった洞察をするといった具合だ。すなわちWhat感を持つことになる。 皆さん仕事にプライドを持っているので、まず仕事をポジティブに見直す意識からスタートすることが必要だ。 

   2つ目の「具体的に製品・サービスを構想する」は、市場・技術のマッチと製品・サービスの構成するハード・ソフトへのバラシ(マッチとバラシ)を行うことだ。市場・技術のマッチは、やや抽象的に対象市場の顧客ニーズの技術での充足を関連付けることであり、製品・サービスのバラシは、具体的にハードやソフト部品構成を示した部品表のイメージを作成することとなる。 
 市場・技術のマッチについては、技術は「〇〇を企画・設計・製造する技術」と記載することが多いが、あくまで手段であるので目的としての〇〇とセットにすることが大切だ。〇〇は対象市場の顧客ニーズの充足となるが、漠然としていて技術と関連づけるのが難しい。ここにどんな働き=機能が求められ/提供できるかを挟むとつなげ易くなる。 
 「ドリルを売るには穴を売れ」という有名な言葉で考えて見よう。「バリのない平滑な穴」をあけるには、「ドリルの切れ味の継続と高速安定回転」の働き、そのための「ドリル刃と駆動方法」を企画・設計・実現する技術、といったようにつながる。これを複数のニーズに対する働き=機能と技術とを連関させたツリーとして作成する。例えば、働き=機能として高速安定回転を実現するのに、既存方法に捉われない駆動方法を発想するなどの検討を加える。作成には、類似製品がどんな訴求で製品をアピールしているかを調べると、参考になる働き=機能や技術の言葉が見つかる。
 製品・サービスのバラシについては、類似製品を参考にしながら構成するハード・ソフトに分解していく。これも難しく感じるかもしれない。ただ実際やってみると類似品の構成のイメージを持った上で、自分の場合にあてはめると技術知識はなくともスムーズに検討できてしまう。  部品表なら既に作成されている、と言われる企業は多いとは思う。ただそれは設計や生産の段階でそれも限定された使い方が多い。ここでは製品・サービスの構想段階での作成を想定している。 
 このマッチとバラシで、新製品企画などで一挙に具体的な検討に入ることが可能になる。イメージだけでは議論が先に進まないが、技術に加えて、対象市場の顧客ニーズと製品・サービスの構成ハード・ソフトがセットになることで、各部署の共通議論の土俵となる。どの専門家と何を話したら良いかが明瞭になる。 自らのWhat感を実現する上で、一歩踏み込み周りを巻き込むツールとしても重要だ。
 ハードやソフトを詳細に設計する技術は重要だが、その前にラフでも具体的に構想することが必要だ。このマッチとバラシは技術の理解がそれほどなくともできる。T型人材の「ー」の部分はこのマッチとバラシのできる人材ということだと思う。 

 3つ目の「無形な技術を蓄積活用し価値提供につなげる」は、これまでの2つと関連するが、技術に関連する情報を如何に可視化し価値提供し対価を得るかということだ。 インターネット検索で使う検索エンジンは、言葉や図表などインターネット上の電子化された情報について、常に情報収集し目次を作り検索キーワードに関連する情報を抽出できるようにしている。一方で我々の取り扱う技術に関連する情報の多くは、電子化されておらず改造設備、設計図やマニュアルなど様々なところに散在している。また仕入先も含めた人の頭の中にあることも多い。その多くは無形なので、意図的に情報収集し目次を作らないと蓄積活用出来ない。 
 前述のマッチとバラシは、市場と顧客ニーズ、求められ/提供する働き=機能、製品・サービス、構成ハード・ソフトと技術のつながりを示すものだ。これに関連する情報を紐づけると顧客ニーズの充足に活用できる情報の蓄積ができる。チャットGPTはインターネット上の電子化された情報の検索編集は得意だが、これら散在された電子化されていない情報には手が出ない。ここには常に人の役割がある。 
 加えて世の中と顧客ニーズの変化や、自社の状況変化、3Xの機会と脅威などからの新たなWhat感を持ち、顧客ニーズから技術までをつなげた蓄積を活かして能動的な提案を行う。
 価値提供は顧客から頂戴する対価とセットであるべきだ。十分な対価を得るには、顧客と自分達の相対的な力関係を考える必要がある。一例だが、従来からの顧客は、新しい技術での提案が自分たちの生産性向上につながっても、それを評価して対価アップすることは少ない。ただ新たな顧客は生産性向上に見合った対価を払うことが多い。対象業種や地域を広げて、自社の価値を正当に評価する顧客を見つけることも必要だ。

 これまで述べてきた3つは「何ができると MOTを学んだと言えるのか」 への完全な答えではないが、技術という無形なものをマネジメントする上では、技術の可能性に気づく視点を持ち、具体的に製品・サービスを構想し、無形な技術を蓄積活用し価値提供につなげる、一貫した基本活動が大切だと考えている。今後さらに深めていきたい。

清水弘

清水弘(専任教授)

  • 専任教授(実務家教員) 研究科長
  • ビジネスエンジニアリング株式会社 社外取締役
  • アーサー・D・リトル株式会社(ADL)シニアアドバイザー
  • 日本の中堅製造業の監査役や中国の自動車部品企業のCEOアドバイザー
  • 研究・イノベーション学会会員

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