最近「ティール組織」という単語を聞く機会が増えた。「ティール組織」(フレデリック・ラルー著、英治出版)が7万部を超えたベストセラーになっており、組織に閉塞感を感じている人にとってインパクトがあるのであろう。
大企業の方からも「ティール組織」にしないと次世代に生き残れないという話を聞くようになった。かく言う私も、日本企業で唯一取り上げられた株式会社オズビジョンの松田光憲氏を招いて、日本工大MOTで研究会を開催した。
ティール組織は「『セルフマネジメント(自主経営)』や『ホールネス(全体性)』、『組織の存在目的』など、従来のものとは大きく異なる独自の組織構造や慣例、文化を持つ次世代型組織」と定義されている。詳細な説明は割愛するが、今まで特徴的であった効率的な生産管理を目的としたピラミッド・階層構造とは、その在り方が大きく異なる組織である。
最近は、組織を「機械」ではなく「生命体」として捉える考え方が広がってきている。「機械」として捉えると、その組織を作った人が考える目的のために存在し、「生命体」として捉えると、自分自身の内在的な目的を持っていると表現できる。ティール組織は、自律的な個々のメンバーが生命体のように自己組織化する新しい組織と言える。
ティール組織の説明で「進化」という表現が使われることがある。最も進化した組織と認識されているのか、「ティール組織になるためにはどうしたらよいのか」という相談を受けるときがある。最も進化したティール組織になればビジネスで成功する可能性が高まると考えているのかもしれない。では、実際にそうなのだろうか? 確かにVUCA(Volatility –変動性、Uncertainty –不確実性、Complexity –複雑性、Ambiguity –曖昧性、の頭文字をとったもの)の時代と言われ、あらゆるものを取り巻く環境が複雑性を増し、想定外の事象が次々と発生するため、将来の予測が困難な状況においては、生命体としてのティール組織は一つの対応モデルとして期待できる。個々のメンバーが周りの環境変化に対応して自己組織化していくことが期待できるからである。このような組織を構築・導入する最大のチャレンジは何であろうか? リーダーとメンバーの視点から考えてみたい。
リーダーにとっては、現在所有している権限を手放すことができるかがチャレンジになる。リーダーが「ティール組織を作る」と述べている時点で、自分がコントロールして望むべき組織を構築するという意識があり、組織を「機械」として捉えていることを示しているかもしれない。また、現在の権限を失うことなくティール組織を構築したいという矛盾したことを期待している場合もある。私もそうであるが、今までの階層的組織に慣れていると、権限を行使するのは「気持ちが良い」のである。その権限をメンバーに委譲していくのは、大きな意識変化が必要となる。
メンバーにとっては、個々人が自律性を持つことがチャレンジになる。誰もが「自律性」「責任」を持つことを希望していると思われるかもしれないが、詳細を定義された環境での仕事を望んでいる人も多いのが現実である。
こうしてみると、リーダーだけではなくメンバーも意識改革が必要であることが分かる。また、最も重要なのはビジネス上の必要性も確認することである。進化した組織という流行に流され「ティール組織」を構築・導入すること自体を目的とせず、ビジネス上のニーズを確認し、それで必要な場合には大きな意識・文化を変えることに取り組むことが求められる。
次号(No.38)は 佐々木 勉教授が執筆予定です。