昨年の4月のMOTレターでは、「パンデミックと5G」についてお話をしました。そのパンデミック、新型コロナの脅威は一年がたった今も、まだ見通しが立っていません、1年前には予想していなかったことです。
昨年の4月のMOTレターでは、「パンデミックと5G」についてお話をしました。そのパンデミック、新型コロナの脅威は一年がたった今も、まだ見通しが立っていません、1年前には予想していなかったことです。
この一年間で私が強く感じたことに、事業や個人におけるポートフォリオ・マネジメントの重要性です。ポートフォリオとは、講義の中で学んだ方もいると思いますが、資産ポートフォリオ、事業ポートフォリオ、製品ポートフォリオなどの言葉がありますが、収益を生み出す対象の組み合わせのことを言います。例えば資産ポートフォリオは、株式、債券、現金、REITなどの、複数の資産の組み合わせを適正に行うことで、リターンを最大化するためのマネジメントツールです。事業・製品ポートフォリオは、事業や製品から得られる収益を長期的に最大化するための、複数の事業の組み合わせをマネジメントするためのものです。
このポートフォリオで考える重要な点の一つが、リスクを最小化するマネジメントです。世の中、まさに今回の新型コロナの蔓延がそうであるように、不確実性にあふれています。不確実性はその多くの部分が事前に想定できないものであり、その想定できない不確実性に対応する一つの方法がポートフォリオ・マネジメントです。例えば食堂経営であれば、食堂の経営とその他に弁当のテイクアウト販売という2つの事業から構成されるポートフォリオを持てば、今回の新型コロナウイルスの蔓延による食堂の売上の減少は、弁当の販売増で緩和できるというものです。
ポートフォリオなど難しい言葉を使っていますが、要はそういうことですので、そんなことはわかっていると思われるかもしれません。しかし、ここで多くの人や企業が認識していないポートフォリオ・マネジメントを適正に行う大前提に、「範囲の経済性」があります。現実には一つ一つの事業を適正に経営するには、資金、エネルギー、人材、技術、時間といった経営資源や能力が必要です。しかし、個別の独立した事業に、それぞれに必要な異なる経営資源や能力を投入することは非効率です。
ポートフォリオ・マネジメントを効率的に行うには、それぞれの事業の展開に必要な経営資源や能力が共有されていることが極めて重要になります。この効率性を実現するものが「範囲の経済性」です。例えば上の食堂の例では、食堂運営と弁当販売には、共通の経営資源や能力、すなわち厨房設備、料理をする能力、食材の調達網などが共有されており、まさにその点において「範囲の経済性」が活かされています。食堂が理髪店を経営するということには、このような「範囲の経済性」はありません。まったく別の設備や技術が必要となるからです。
近年社員の副業を奨励する会社が増えていますが(私自身は企業での副業奨励には反対なのですが)、社員の視点からいうと、そのような制度を利用して自分の能力を使って複数の収入源を展開することは、まさに「範囲の経済性」を利用してポートフォリオ・マネジメントを行っていることになります。
今回の新型ウイルスの脅威を機会に、自分自身や自社の能力を棚卸し、その中から「範囲の経済性」を実現できるような経営資源や能力を見極め、それらを活用し複数の収益源を考えてみることは有効なことに思えます。