コロナ禍になってから、「ジョブ型雇用」という言葉が頻繁に取り上げられるようになった。「ジョブ型雇用」とは、職務を特定し、その職務を遂行できるプロフェッショナル人材を募集して雇用する欧米では一般的な雇用スタイルを意味する。では、今なぜ「ジョブ型雇用」が取り上げられるようになったのだろうか。
昨年に引き続き、東京都などでは緊急事態宣言下のゴールデンウイークとなった。ワクチン接種は開始されたが、変異型コロナウイルスも拡大しており、現時点では収束に向かう気配はない。テレワークを中心とした仕事や飲食/旅行が制限される私生活も、当面は同様の状況が継続されるだろう。
コロナ禍になってから、「ジョブ型雇用」という言葉が頻繁に取り上げられるようになった。日立製作所、富士通、KDDI、資生堂などといった大企業が「ジョブ型雇用」を導入することも、メディアで取り上げられ大きな流れになった。「ジョブ型雇用」とは、職務を特定し、その職務を遂行できるプロフェッショナル人材を募集して雇用する欧米では一般的な雇用スタイルを意味する。日本で一般的な雇用は「メンバーシップ雇用」と呼ばれ、新卒採用から教育研修を繰り返してジョブローテーションを行い、人材を育成することを意味する。仕事をベースにしたスペシャリストか、会社をベースにしたゼネラリストのどちらの人材が中心になるのかの違いとも言える。
では、今なぜ「ジョブ型雇用」が取り上げられるようになったのだろうか。まず、コロナ禍前の2019年に経団連の中西宏明会長が「終身雇用を前提に企業経営、事業活動を考えるのは限界」、トヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べたことにより、経済界から新卒一括採用や終身雇用、年功序列を柱とする日本型雇用のあり方に対して提言があった。また「働き方改革」として、イノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を構築し、個々の事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現することに厚生労働省が打ち上げた。そして、新型コロナウイルスの感染拡大により、雇用や働き方への変化に拍車がかかったのである。また、同一労働同一賃金ルールも2020年から大企業に導入され、今年から中小企業も対象となってくるため、人中心から仕事中心の「ジョブ型雇用」への移行は避けられなくなっている。我々のビジネスを取り巻く環境は大きく変化しており、新型コロナウイルスがそのスピードを加速したと言える。
新型コロナウイルスによりもたされた働き方の変化は、テレワークの拡大であろう。その結果として人事評価も、普段の仕事ぶり/プロセスを中心とした評価から、仕事の成果を評価することの必要性が生じた。ワクチンにより新型コロナウイルスの脅威が消えても、この働き方は継続されることが想定される。なぜならば、テレワークが可能なことが証明され、より多様な働き方が企業の魅力につながるからである。
では、この変化は中小企業でも同様なのだろうか。東京都によるテレワーク導入率調査結果によると、2021年1月現在で300人以上の企業では76.5%、100~299人の企業では63.6%、30~90人の企業では47.0%、がテレワークを導入している結果となっている。50%以上の中小企業はテレワークを導入しているものの、大企業と比較すると導入率に差がある結果となっているが、前述した理由と業務プロセスを見直すという視点から、今後テレワークを導入していく中小企業は増加するだろう。
では「ジョブ型雇用」はどうだろうか。大企業は、システム/フレームワークで組織をマネジメントする必要があり、同一労働同一賃金ルールもあることから、「ジョブ型雇用」への移行は避けられない。また、年功ではなくデジタル人材といった高い専門性とニーズの高い人材の獲得や成果に応じた人件費管理の視点からも、有効な仕組みとなることは間違いない。
中小企業においては、私は大企業と同じ方法の各ポジションで職務記述書を作成し職務評価により等級付けする仕組みを導入する必要はないと考える。その理由としては、システム/フレームワークではなく人ベースで組織をマネジメントした方が中小企業にとっては効果的である可能性が高いからである。中小企業では外部から専門家人材を採用するのには限界があるため、職務を明確に定義していくよりも、「ざっくり」と職務を定義して人の技量に合わせて職務を柔軟に変えていく方が現実的である。現存人員を中心とした組織運営を実現するためには、人をベースにしたマネジメントが選択肢となる。
人をベースにしたマネジメントでは、職務を詳細に分析・定義するよりも「パーパス(Purpose)経営」に舵を切ることを期待する。パーパス経営は、ミッション/ビジョンによる経営と同様の意味合いであるが、「社会やコミュニティの中でこうありたい」と「企業の原点」により焦点を絞っている。細かく職務を定義するのではなく、企業の存在価値を明確にして、社員一人ひとりがそのために何をするかを考え実行することが継続的経営に結びつき、環境変化の激しい現在に合致した仕組みであろう。社会や組織への貢献を強く感じるのは、社員のエンゲージメントにも肯定的なインパクトがある。新型コロナウイルスによりもたされた変化を企業運営改革の機会、および結果として専門性の高い人材が中小企業で活躍していくことを期待したい。