NIT MOT Letter #4

イノベーションを生み出す公共空間

  • 西尾 好司
  • 2016年06月01日

日本工業大学大学院技術経営研究科は、様々な業界の中小企業や大企業に所属する院生が学んでいます。院生の経歴や年齢も多様で、院生の多様性は他校よりも広いと思います。

講義では教員が取り上げることに対して、院生の間で異なる反応や意見が出てきます。そのことにより講義は、教員と院生だけでなく、院生間の対話・議論の場となり、院生の多様性が、対話を活性化します。この多種多様な参加者による対話は、重要なイノベーションの場となります。

イノベーションの初期段階では、新しい発想・価値を見出していく解釈的なアプローチが必要になることがありますが、MITのリチャード・ㇾスターとマイケル・ピオーリよれば、通常企業は課題解決を目的とする分析的な活動が中心なので、このような解釈的な取り組みをしなくなります(『イノベーション:「曖昧さ」との対話による企業革新』)。彼らは、多様性を許容・理解しあって、異なる職業や多様な経歴、幅広い視野を持つ人々が参加して自由奔放に語り合う、開放的な「対話」のできる場を「公共空間」と呼び、その重要性と市場圧力から守るべきと主張します。この「公共空間」での解釈的な活動では、いくつかのパターンがあって、それを当てはめれば済むものではありません。むしろ、当初の計画通りには進まないという「曖昧さ」を前提とした活動となります。新しい発想を生むため参加者の流動性も必要になります。対話から製品やサービスの意味を見つけ、価値を作り出していくプロセスなので、当初の計画や目的も変化します。互恵性に基づき多様な見方を承認し、信頼を醸成し、緩やかでもつなぐ場として作り上げていくので、相当時間と手間がかかります。例えば、健康・医療・福祉、高齢者を対象とする製品やサービスでは、ユーザー側で購入した製品に改良を加えることも多く、そもそも何を作っていくべきなのか、製品やサービスの意味を明確にするプロセスが必要になります。

日本企業から魅力的な製品やサービスが生まれにくくなっていると言われて久しいです。このような状態だからこそ、自社で考えた製品やサービスをどのように受け入れてもらえるか、または受け入れてもらえるユーザーを探すのではなく、本当に自社で提供すべきものを見出す、解釈的な取り組みを行うことが必要ではないでしょうか。大学はイノベーションの重要な「公共空間」です。これは研究だけでなく、講義にも当てはまります。講義は教員が話す情報や考えを理解するだけの場ではなく、院生同士の議論も含め、自分自身の知識を育み、考えを構築していくプロセスの1つです。これまでの社内やこれまで取引のある顧客との関係だけでは得られない、多様な考えを知り、気づきを得る貴重な機会です。院生は、入学前に自分で考えていた問題意識に拘らずに、修了生は講義に参加できる機会があれば積極的に大学という「公共空間」を活用して欲しいです。レスターとピオーリが事例で取り上げているように社内にも「公共空間」を構築できます。大学において、多様な参加者の間でのコミュニケーションの力を身に付け、新しい発想や気づきを得て、社内に「公共空間」を構築する、あるいは解釈的な取り組みを実施し、新しい製品やサービスの創出につなげてもらえればと思います。

次号(No.5)は髙篠昭夫教授が執筆予定です。

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