NIT MOT Letter #27

MECEの活用 ~ダブりはともかく、もれなく考察するために~

  • 佐々木 勉
  • 2018年07月04日

今回は、本大学院の多くの修了生・院生が興味を持つとともに活用されているMECEについて、少し考えてみることにします。

身近なことの原因究明などにも活用できるこの考え方は、思考の近道(心理学でいうところのheuristic)による誤った行動に陥らないためにも活用することが求められていると考えています。

MECEとは、ロジカルシンキングなどで用いられる用語で、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略です。「相互に排他的で全体として網羅的である」と直訳できますが、通常は「もれなくダブりなく」とか「漏れなく重複なく」と称している用語です。何らかの物事について検討する際、様々な項目について検討することになりますが、その様々な項目を思いつくままに挙げただけでは、検討すべき項目が漏れたり複数項目に重複して入っていたりして、検討が不十分であったり非効率になったりします。これを防ぐために、検討項目に漏れがなくダブりがないかをチェックしようということです。と言っても、常に一からもれなくダブりのない分類を作るのは至難の業です。そこで活用されるのがフレームワークです。

フレームワークの事例に入る前に、MECEの考え方を数学の考え方でみておきましょう。数学のような学問なら、対象とする集合を「もれなくダブりなく」分類することが可能です。例えば、自然数の集合を「5で割り切れる数の集合」、「5で割ると1余る数の集合」「5で割ると2余る数の集合」「5で割ると3余る数の集合」「5で割ると4余る数の集合」の5つの部分集合に分類すると、いずれの自然数もいずれかの部分集合に属し(漏れがなく)、この5つの部分集合のいずれの二つの部分集合にも共通要素はありません(ダブりがない)。剰余類と言われるものです。自然数全体の集合をUとすると、5で割った時のあまりの数により各部分集合をA0A1A2A3A4と表しますと、次のようになります。

   A0∪A1∪A2∪A3∪A4=U

   任意の自然数iとj(0≦i,j≦4,i≠j)について Ai∩Aj=∅

このように、MECEの考え方は集合の考え方からいうと、「全体集合を漏れがないようにいくつかの部分集合に分け、その部分集合にはいずれにも重なりがないこと」と理解できます。図としてもイメージしやすくなります。MECEに限らずロジカルな考え方で検証しようとするとき、集合論的に考察することで多くのことが理解できます。

技術経営を学ぶ皆さんの場合、どのような場面でMECEを意識されるでしょうか。そこで、フレームワークで活用されている事例をみてみましょう。

例えば、フィッシュボーン・チャートと呼ばれる特性要因図を作成する場合を考えてみましょう。仕事をした結果生じる事が「特性」で、問題点のことです。この結果(問題点)に対して影響を及ぼしたであろう原因が「要因」となりますが、特に大きなあるいは根本的な原因となるものを探索すべく特性要因図を作成します。そして、作成したと特性要因図の小骨となる各項目をチェックし、影響の大きいものあるいは根本的な要因を抽出し、その改善策を考えることになります。

この特性要因図を用いた検討の際の大骨や中骨、小骨の項目を検討するとき、MECEに留意するのです。製造現場では、特性要因図の大骨として5M+1Eがよく使われます。

  1. 技術も含めてのマシン(Machine)
  2. プロセスも含めての方法(Method)
  3. 原料や消耗品も含めての材料(Material)
  4. 作業者や監督者、その人員配置や意識も含めて(Man)
  5. 測定・検査(Measurement)そして、
  6. 作業環境などの環境(Environment)です。

中骨以降は、その現場に合わせて検討することになりますが、大骨については概ねこの分類でMECEを満たしているといえるでしょう。

しかし、この5M+1Eを知っていればいいのですが、知らなくて一から考えるとなると大変なことです。経験からだけ考察すると漏れが生じやすくなります。5M+1Eのように、問題が生じたときに考察(チェック)すべき事項について整理していれば、それに基づき考察することができます。しかし、この整理したものがないと、同じような問題が生じたときの原因であった事柄、特に時間的に近い時期に経験した原因であった事柄が原因ではないかと思い込みがちです。あたっていれば効率的なのですが、あたっていないときは他の要因を考察するのに時間を要します。また、あたっていたとしても、それだけが原因とは限らないこともあり、他の原因を見落とすことにもなりかねません。利用可能性ヒューリスティック(heuristic)によるバイアスと言えます(※)。

※時間的に近い時期に経験した原因であった事柄が原因ではないかと思い込みがちな傾向は、利用可能性ヒューリスティックによるバイアスの一つです。人は記憶が鮮明で想起しやすい事柄の影響を受けやすい傾向にあることによるものです。ビジネスにおいても、1年間の人事評価を行う場合、どうしても最近3か月程度の評価対象者の業績に影響を受けやすくなります。そのため、四半期ごとに人事評価を行っておき、その結果を踏まえて一年間の人事評価行うようにすることなどは、利用可能性ヒューリスティックによるバイアスを避けるための一つの手段です。

このように考えてみますと、マーケティングミックスと呼ばれる4P(Product, Price, Place, Promotion)にも注意しなければなりません。最近は、顧客視点ということで、4C(Customer Value, Cost, Convenience, Communication)という言い方も出てきますが、それでも、マーケティング方策を考えるとき、この4Pあるいは4Cで検討すべき項目が網羅されているでしょうか。マーケティング活動の検討に際して、「何を」を「いかなる価格」で、「どのような流通経路」を用いて、「どのような販売促進策」で行えばよいかを検討すれば、もれなく検討しているでしょうか。そうです、肝心な「誰に」が抜けているのです。4Pや4Cでは事前に顧客が決定しているか、4Pや4Cの考察の中に含まれているという解釈もありますが、ダブってもいいから顧客については別途検討するのが適切だと考えます。ダブってもいいから漏れなくすることの方が肝心だと考えています。加えて、4Pや4Cを考察する中で顧客セグメントも変化してくるものです。あっち行ったりこっちに来たりしながら考えましょう。

佐々木勉

佐々木勉(専任教授)

  • 専任教授(実務家教員)
  • ㈱ヴィジョン研究所取締役主任研究員

次号(No.28)は 武富 為嗣教授 が執筆予定です。

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