NIT MOT Letter #60

社会と企業経営とジェンダー平等

  • 中村 明 
  • 2021年06月08日

昨今のSDGs、ESGなどのトレンドや各種社会的モーブメントもあり、日本社会においてもジェンダー平等、多様性に関する国民的関心は少しずつではあるものの高まってきていると感じている。しかしながら、ジェンダー平等については国際的な議論の中で日本は明らかに劣位していることを否めない。それでは実際の日本社会の実態はどうであろうか?

 2013年9月26日、国連総会における一般討論演説において、当時の安倍総理は、26分のスピーチの半分を『女性の輝く社会』の実現に向けた決意の表明にあてた。その前日、25日のニューヨーク証券取引所のスピーチでも、女性の力、女性の活躍が日本の成長に不可避であることを強調した。こうした首相による国際舞台での表明の後、2014年~2020年まで毎年日本で世界の様々な国・地域・機関の女性リーダーなど、多様なステークホルダーの参加のもと、国際女性会議WAW!(World Assembly for Women)が開催され、ジェンダー問題に関する様々なアジェンダが議論され、提言が発信されてきた。2014年のノーベル平和賞受賞者であるマララ・ユスフザイさんなども参加者の一人となっている。この一連の動きを知る日本人は一部に限られていると思われるが、昨今のSDGs、ESGなどのトレンドや各種社会的モーブメントもあり、日本社会においてもジェンダー平等、多様性に関する国民的関心は少しずつではあるものの高まってきていると感じている。

 しかしながら、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が毎年発表しているジェンダーギャップ指数(Global Gender Gap Index)を見ると、2021年3月31日にリリースされた最新のレポートにおいて、日本は調査対象156カ国中、120位と依然として世界の後位に位置する。5年前の2016年のレポートでは、144カ国中、111位であり、この5年間でジェンダーギャップに関して大きな改善は認められず、むしろ世界に比べ後退している状況にある。ジェンダーギャップ指数は、「経済参加と機会(5指標)」「教育的達成(4指標)」「健康と生存(2指標)」「政治的エンパワメント(3指標)」の4つの側面の合計14指標から評価されているが、日本のスコアが最も悪いのは「政治的エンパワメント」、次に「経済参加と機会」であり、順に147位と117位となっている。個別の指標では、女性国会議員比率が140位、企業などにおける女性管理職比率が139位であり、政治、経済いずれにおいても意思決定を担う立場の女性比率が低くなっている。国会議員については、列国議会同盟(IPU:Inter-Parliamentary Union)が最新の情報を随時更新・公表しており、2021年4月時点での女性国会議員比率の世界平均は25.5%、ルワンダが1位で61.3%、日本は9.9%で166位と、G7の最下位となっている。また、女性の管理職比率については、2019年の国際労働機関(ILO)のレポートによると、2018年時点で世界の平均が27.1%であるのに対し、日本は12%に留まっており、こちらもG7の最下位にある。

 以上の通り、ジェンダー平等については国際的な議論の中で日本は明らかに劣位していることを否めない。それでは実際の日本社会の実態はどうであろうか?最近の出来事を振り返ってみたい。まず、過去何年にもわたり医学部の入試において女性や浪人生を不利に扱う不正が行われていたことが2018年に明るみに出たことが記憶に新しい。発端は一大学であったが、その後の文部科学省の調査により複数の大学で不適切な採点の疑いが生じ、その後合計10大学が不正な採点を行っていた旨を公表するに至った。この件を通じ、現代においてもこういった事実があったことに驚いた国民も少なくなかったものと思われる。本件を引用しつつ、女子学生の置かれた現実に言及した2019年4月の東京大学の上野千鶴子名誉教授による入学式祝辞はメディアでも大きく取り上げられ、大きな反響を呼んだ。また、直近では2021年2月に当時の東京五輪・パラリンピック組織委員会会長で元総理の森喜朗氏が女性蔑視発言で辞任に追い込まれた。五輪関係ではその直後にも開会式の式典統括のディレクターが女性タレントの容姿侮辱発言により辞任するといった事態も発生した。一連の出来事は、国際社会でも大きく報じられ、日本社会のジェンダー問題の根の深さを改めて国内外に露呈することになった。ちなみに、オリンピック憲章(The Olympic Charter)には、「このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、 確実に享受されなければならない。(The enjoyment of the rights and freedoms set forth in this Olympic Charter shall be secured without discrimination of any kind, such as race, colour, sex, sexual orientation, language, religion, political or other opinion, national or social origin, property, birth or other status.)」とある。五輪を招致した国の国民として、この憲章に掲げられるあらゆる人間を平等とする精神の意味するところを今一度確認しておく必要があるように思う。

 ここまでジェンダー問題に関する日本の状況が国際社会の中で立ち遅れている現実について数字や出来事より確認してきた。最後にこの問題にどう対処すべきなのかという点を考えてみたい。ジェンダーによる不平等の問題は、歴史的に世界のほとんどの国・地域で存在してきた。そして、現在においてもオンゴーイングの問題である。だからこそ、MDGsやSDGsのゴールに設定され、世界の様々な機会において、多様な主体により議論がなされ、改善に向けた活動が間断なく続けられている。残念ながら現時点では国際社会としてこの問題の解決にはまだまだ多くの課題が残されているのが実態である。決して日本だけの問題ではなく、依然として世界共通の課題である。しかし、以前より確実に進展しているのは事実であり、多くの人間の努力により一歩一歩前進している部分があることは間違いない。王道はないものの、今まで積み重ねられてきた努力の成果より確実に言えることは、女性の、あるいは多様な主体の、“参加”の重要性、特に“意思決定への参加”の重要性ではないかと思う。そして、グッドプラクティスを国際社会の中で学び合うことではないかと思う。最近では、女性が活躍する企業は、そうでない企業に比べ、収益的にも良いことを示す数字も公表されている。また、ESGの関心の高まりもあり、投資家側もジェンダー平等や多様性に対する企業の姿勢を評価する傾向も強まっている。社会や企業は、その構成員に支えられる公器であり、一部の人間の価値観や論理で押し切ろうとしても結局はステークホルダー全体としての調和や満足は十分得られず、行き詰まるというのは歴史が物語るところでもある。国づくり、社会づくり、企業づくりに、広くその構成員の意向や考え、知恵などを反映する努力を継続していくこと、そしてあらゆる人が活躍できる場と機会をつくっていくことが、持続可能な社会や企業の実現には不可欠な要素であろう。誰にとっても生きやすい社会、あらゆる人にとって働きがいのある企業は、皆でつくるものである。その鍵となるのは、意味のある“参加”であり、その地道な積み重ねの先にジェンダー平等、多様性の受容される包摂的社会・企業の実現、そして健全な社会と経営の実現がある。

中村明

中村明(専任教授)

  • 専任教授(研究者教員)
  • 八千代エンジニヤリング株式会社事業統括本部海外事業部 顧問・統括技師長
  • 神戸大学非常勤講師(国際関係論)
  • 国際P2M学会評議員
  • 土木学会、国際P2M学会、アジア交通学会、化学工学会の会員

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