NIT MOT Letter #63

経営的視点からみた東京オリンピック・パラリンピック2020

  • 平川 淳
  • 2021年10月09日

コロナ禍が収束しないまま、実施された東京オリンピック・パラリンピック2020も無事終わった。終わってみると、オリンピックは日本のメダルラッシュに沸き、パラリンピックでは人間の可能性が無限であることに多くの人が感動し、改めてオリンピックの素晴らしさを再認識した人も多かったと思う。

 コロナ禍が収束しないまま、実施された東京オリンピック・パラリンピック2020も無事終わった。終わってみると、オリンピックは日本のメダルラッシュに沸き、パラリンピックでは人間の可能性が無限であることに多くの人が感動し、改めてオリンピックの素晴らしさを再認識した人も多かったと思う。無観客で行われたにもかかわらず、テレビを通じて現場の興奮が伝わってきた。オリンピック開催までの経緯、度重なる変更、冗長な開会式、コロナ対策、運営など批判する人も少なからずいるが、海外の反応などを見てもおおむね好意的な意見が多い。世の中的には成功したということで落ちついているのではないだろうか。

私は経営コンサルタントとして40年、経営者として15年、経営の最前線で活動してきた。そこで、経営的視点で東京オリンピック・パラリンピックを検証してみたい。

 経営において成功したかどうかはミッションを達成できたかどうかである。ミッションを達成し、成功するには「ミッション」➡「戦略」➡「組織」➡「リーダー」が一貫して実行されないといけない。この中のどれか一つでもかけていれば成功はできない。

平川先生2.png 2019年のラグビーワールドカップの事例で検証してみる。ラグビー日本代表のミッションは自国開催のワールドカップで「悲願のベスト8」に入ることであった。このミッションは、選手、コーチ、協会、ファンにまで共有できていた。ベスト8入るためは予選リーグで5チーム中上位2位までに入らなければならい。日本が入っているグループAは日本よりランキング上位のアイルランド、スコットランド、下位のロシア、サモアだった。2位以上になるために、ロシア、サモアに勝つことはもちろん、アイルランド、スコットランドに勝たなければならない。そのために徹底した相手チームの分析に基づき精緻な弱者の戦略を立てた。そして、その戦略を実施するために、組織編制は前半を若手中心で動き回り相手を疲れさせ、後半ベテランを投入し、逆転勝ちを狙うという組織戦略であった。この戦略を実行し、組織を機能させたのは卓越したリーダーシップを持ったリーチマイケルであった。このように「ミッション、戦略、組織、リーダー」が見事に機能し成功した。

 ひるがえって東京オリンピック・パラリンピック2020を1964年の東京オリンピックと比較して検証してみよう。1964年の東京オリンピックは世界中の誰もが認める大成功のオリンピックだった。「ミッションは、第二次世界大戦で廃墟となった日本が平和国家として生まれ変わり、経済大国として成長している姿を世界に知ってもらう」ということで全国民が一致していた。「戦略はオリンピック開催を機に、東京の再開発、新幹線、高速道路網の整備などその後の高度経済成長を支えるインフラ整備と、グローバル化を進める」「組織は東京オリンピック委員会一本に統一」「リーダーは田畑政治」と成功の法則が見事に当てはまり大成功。一方、今回の東京オリンピック・パラリンピック2020のミッションは当初「大震災からの復興」といっていたが、コロナのパンデミックとともに、「コロナ克服」オリンピックといってみたり、最後までミッションが不明確なまま進んだ。戦略は商業主義が露骨に出て、開催時期も含めて、何のために誰のために開催しているのかわからなくなってしまった。組織、リーダーに至っては誰がどこで、どんな経緯で、どうやって意思決定しているのか全く分からない。世論から批判されるとすぐに変更、変更の連続、現場は混乱の極みだったと聞く。リーダーは、橋本聖子?丸川珠代?小池百合子?菅総理?誰がトップなのかさっぱりわからない。これでは成功した(ミッションを達成した)とはとても言えない状況である。

 このように、経営の視点からみれば成功したかどうかの判断基準となるミッションが明確になっていないプロジェクトは成功したとは間違っても言えない。私もオリンピックを目指していた人間の一人として、オリンピックを愛するがゆえに、このオリンピックの反省を踏まえて、成功の法則を理解し、企業経営、起業、新事業開発、プロジェクト、スポーツチーム運営に活用してほしいと考えています。

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