NIT MOT Letter #66

SDGsとイノベーション

  • 清水 弘
  • 2021年12月25日

最近色々なところで「SDGsとイノベーション」について話をする機会が多くなった。1997年に「環境ビジネスの成長戦略」という本を書いた経験があり、その後もCSR、CSV、ESG、SDGsと企業の環境や社会に配慮した成長に関心があったことに、MOTでの技術とイノベーションの学びが自分の中で関連づけられているようだ。

 最近色々なところで「SDGsとイノベーション」について話をする機会が多くなった。1997年に「環境ビジネスの成長戦略」という本を書いた経験があり、その後もCSR、CSV、ESG、SDGsと企業の環境や社会に配慮した成長に関心があったことに、MOTでの技術とイノベーションの学びが自分の中で関連づけられているようだ。

 今年はCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議と言うらしい)が開かれた。SDGsの対象とする社会課題の中で13番の「気候変動対策」、特に脱炭素がよりクローズアップされたと思う。最近の異常気象とも言える状況を見ていると気候変動対策はまったなしのようだ。気候変動の主因の温暖化ガス低減には、地球が何億年も蓄積した化石資源に頼ることからの脱却が必要だ。今回のMOTレターではこれについて考えてみたい。

 脱炭素の問題に関心を持つようになったのは2つのことが切掛けとなっている。1つは2020年の二酸化炭素(CO2)排出量が前年比でわずか5.8%減だったことだ。(国際エネルギー機関(IEA))コロナ禍のさなかであれほど経済活動が停滞したにも関わらずわずかしか減少していない。CO2排出量低減が大変難しい問題であることを実感したのである。

 もう1つは、ビルゲイツの「地球の未来のため僕が決断したこと」を読み幾つかのことが印象に残ったことだ。3つ挙げてみたい。この本では経済成長をセーブすることには触れず、技術での解決の可能性を示していることだ。確かに経済成長がテーマとなると、すでに経済成長が進んだ先進国対まだまだ成長が必要な新興国の対立となってしまう。技術での解決はその問題を回避できる。

 もう1つは必要な投資を定量化していることだ。温暖化ガスはCO2換算で毎年510億トン排出されているとのこと。直接空気回収でのCO2回収で対処した場合、そのコストを将来的に100ドル/CO2トンと見込んでいる。脱炭素すなわちカーボンゼロにするために、年間5.1兆ドルが必要と算出している。実際に世界が負担できるかは別にして数字で示されたことは大きい。

 加えて問題解決にインパクトのある具体的な技術への資源集中を提案している。ビルゲイツは年間5億トン以上の低減効果のある手段へ投資するとのことだ。資源の集中投入は戦略の基本であることは言うまでもない。

 これらのことから、多くの企業のSDGsの取り組みと真の問題解決とのギャップに気づいた。企業の環境報告書などには報告書に記載するためのネタのようなテーマも多く記載されている。良い方向に進めていく努力は大切だが、真の問題解決とは別な取り組みとなっているテーマも多い。難しい問題であっても技術を見極め、定量化、資源集中で問題解決にチャレンジする姿勢は大切だと思った。

 自分自身もエネルギー関連の事業開発に携わっているので、これらに刺激を受けて脱炭素のためのシナリオを整理してみた。

 ◇エネルギー需要の電気化

 エネルギーを使用する装置・機器の電気化。そのうち特定の移動・運搬や電気貯蔵用途では水素を活用した燃料電池が普及。

 ◇エネルギー供給の電気化

 エネルギーの供給を太陽光や分力など再生可能な電気にシフト。日本の場合は東日本大震災以降、稼働率が下がっている原子力発電の再検討や増加し      た石炭火力発電からの移行も含まれる。

 ◇モノの原材料シフト

 消費者が飲食・使用するモノの原材料の代替。多くの温暖化ガスを排出する材料である金属、セメント、樹脂や化学品の評価と代替が進む。化学産業 は化石資源を原料にしていたが、CO2と水素H2を原料にして樹脂や化学品を生産するCO2固定産業へのシフトが模索されている。食品に関連する農業水産畜産業なども、養殖は飼料としての農産物の生産に相当の温暖化ガスを排出する。すでに普及が始まっている大豆からの人工肉など農産物からの生産へのシフトも進む。

 ◇モノの廃棄すなわち使用を減らす新生活スタイル

 水やゴミなどの廃棄物のリサイクルは進んでいるが、このリサイクルに相当の温暖化ガスを排出する。インドで普及が進む水を使用しないトイレなども一般化するのではないか。

 ◇推進インセンティブ・法規制

 脱炭素不可な領域は温暖化ガス回収コスト相当の費用増。ただ生命や生活必需品は適用除外の規制化(欧州RoHS指令のような)。

 ざっとこのようなことが起こるのではないかと思われる。ぜひウォッチしていきたいと思う。

 ではイノベーションとしてはどう考えればよいのか。ご存じのシュンペーターの定義によると、アントレプレナーによる要素の新結合で新しい価値が創出され、それが積み重なって従来の方法が駆逐され創造的破壊が実現し新たな社会システムとなる。

 一般的には創造的破壊や社会システムのゴールは見えにくいことが多い。それに対して完全な脱炭素を目指すということであれば、ゴールは明確だし創造的破壊される従来の方法も新たに実現する社会システムも描くことが出来る。

 現在の化石資源中心の原材料の需要側と供給側の社会システムは、1700年代の石炭から、石油、天然ガスと300年かけて発展して来た。すでに相当割合が電気化されているとは言え、さらに電気化に大きくシフトさせ原材料の代替を進めることで膨大な機会が生まれる(もちろん脅威も)。

 ただ、COP26の時期前後にあった風力発電の電気で電気自動車化を先行させたい欧州と、ハイブリッド自動車が強く原発稼働が困難で国土が狭く風力や太陽光発電の電気供給を増やせない日本の事情の違いによる、どのような順番で問題解決を行うかの経路選択の議論が起こる。目指すゴールは同じでも、地域・国と企業の思惑の違いで問題解決の経路が異なるため相当の混乱が生じると思う。

 この機会と脅威、そして混乱の中で、「地球を次の世代に渡すために」どんな役割を果たすか。年末から正月に考えて見るのに良いテーマかもしれない。

清水弘

清水弘(専任教授)

  • 専任教授(実務家教員) 研究科長
  • ビジネスエンジニアリング株式会社 社外取締役
  • アーサー・D・リトル株式会社(ADL)シニアアドバイザー
  • 日本の中堅製造業の監査役や中国の自動車部品企業のCEOアドバイザー
  • 研究・イノベーション学会会員

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