NIT MOT Letter #87

生物学からみる企業の進化

  • 石井宏宗
  • 2024年07月30日

わたしの経営者人生は,ちょうど四半世紀を超えた処です.西暦2000年代になるや否や,我が国の産業は国際競争力を失い,半導体・電子部品を取り扱う当社の経営も激変していきました.

わたしの経営者人生は,ちょうど四半世紀を超えた処です.西暦2000年代になるや否や,我が国の産業は国際競争力を失い,半導体・電子部品を取り扱う当社の経営も激変していきました.振り返れば,わたしは売上高よりも損益分岐点(B.E.P.)を強烈に意識した経営をして参りました.この考えに一切のブレはなく,リーマンショックの時でさえ黒字化を実現し,25年間の間に赤字決算は一度もありません.規模は小さいながら,新製品事業の推進にも果敢にチャレンジしています.ただし,規模の視点からみれば,グループ売上高で2007年のピーク100億円から,いまはグループ全体で60億円と▲40%となっているのも事実です(一方,経常利益は売上高100億円の時代を上回る経常利益を出しています).しかしながら,売上高の伸長=成長性というロジック,客観的評価も事実といえましょう.たしかに,一部の周りからは「石井の経営は縮小均衡だ」と揶揄された事もありました.経営者として,「縮小均衡」という言葉は気になる処ではあります.

 先日,今西錦司(1972)『生物の世界』を手に取る機会がありました.今西は,「歴史について」という章で,「生きるということは働くことであり作ることであり,その意味ではすべての生物の日々の生活が進化に触れていなければならないという意味の,一般的な進化は実はこの爬虫類の残党に見られるようにすこぶる微細な進化である(中略)結局環境に淘汰されていわゆる優勝劣敗の優者しか残り得ないものとするならば,生物のやっていることは創造ではなくて投機である.進化は必然の自由によってもたらされたものではなくて,偶然の不自由に由来するものである(中略)変異ということそれ自身もまた主体の環境化であり,環境の主体化でなければならぬ.生きるということの一表現でなければならぬ.否よりよく生きるということの表現でなければならぬ.現状維持が死を意味するとき,生物はつねに何らかの意味でよりよく生きようとしているものであるということができる.」と論じています.

わたしは,この一節に着目しました.法人における縮小均衡を解釈する糸口を見いだしたのです.今西の論考から法人を生物としてメタファーすれば,外部環境に合わせた変異は,たとえ爬虫類残党のトカゲのように矮小化したものだとしても,環境主体としては「より良く生きようとしている創造的進化」とも言えましょう.今後も,わたしは法人の代表として一所懸命に働き,たゆまぬ創造を通して,環境に適応しながら,勁く進化して,より良く生きて行きたいと思います.
石井先生コラム画像.jpg       夕暮れの琵琶湖畔にて本稿執筆

 

 

石井宏宗

石井宏宗(専任教授)

[経営実務]

 サンシン電気株式会社 代表取締役社長

 三新電気香港有限公司 董事長CEO

 株式会社エスシーツー 代表取締役社長

 新光和株式会社 代表取締役社長

 CEBU SHINKOWA Inc. CEO

 新東ホールディングス株式会社 代表取締役社長

[学術研究]

 博士(経営学)

 日本経営実務研究学会 理事

 日本経営監査学会 理事

 日本地方公会計学会 理事

 一般社団法人ICTマネジメント研究会 理事長

 全日本能率連盟2021年度「顕彰牌」受賞

[教育活動]

 日本工業大学専門職大学院MOT 専任教授

 一般社団法人ICTマネジメント研究会理事長

 信州大学 特別講師

 ビズアップ総研 講座講師

 元・明治大学/マレーシア工科大学 DMP特任講師

 元・明海大学非常勤講師 他

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