MOT 働きながら技術経営が学べる1年制大学院 日本工大MOT

【No.41】“失敗”と“チャンピオンデータ”について

NIT MOT Letter

No.41 / 髙篠 昭夫(専任教授) 

 

昨年ある業界団体の月刊機関誌から、「私の苦労話・失敗談」の執筆依頼を受けました。過去に関わったプロジェクトで失敗を経験している私にとっては題材には事欠かないので、既に時効である失敗の一つを提供させて頂きました。プロジェクトの場合、コスト、日程、品質(出来栄え)が常にトレードオフの関係にあり、全ての面で顧客の満足に応えることは至難の業です。プロジェクトマネジメントとはどうすればプロジェクトでの失敗を避けることができるのかをまとめたものといっても良いでしょう。

「しくじり先生 俺みたいになるな!!」というTV番組がありました。また「わたしの失敗」、「同Ⅱ」(文春文庫)と題する著名人の失敗談が本になっているように、最近では失敗談が取り上げられ、「挫折や転機からの再生を通した人間力」「失敗から学んだ大切なこと」などがポジティブに受け入れられるようになってきました。

災害や事故から見た“失敗学”というアプローチでは、東大名誉教授の畑中洋太郎氏が「失敗学」を唱えています。畑中氏は機械工学の専門家で機械設計に長年携わってきた技術者です。これまでに発生した事故と設計ミスの関連を解析し、“設計ミスをしない方法”から「うまくいかなかったやり方」「失敗」に学ぶことが物事の真の理解につながり、新たなものを創造する能力が身につくという結論に至り、“失敗学”にたどり着いたと述べています。

では失敗から逃れるにはどうしたらよいのか?失敗の性質を理解したうえで失敗に対処する方法がいくつか紹介されています。その中で「チャンピオンデータは闇夜の灯台」というものがあります。何か新たなことにチャレンジしても成功率が極めて低く、うまくいかないと心がくじけそうになります。闇夜の中で彼方に見える灯台は心の支えとなるでしょう。ここで言う「チャンピオンデータ」とは「どうしたらよいかわからないがとにかく既に他の人がその目標を達成している状態」のことです。起業や第二創業、プロジェクトを扱う日工大MOTでは、様々な経験者をゲストスピーカーとして招き、話を聞く機会を設けています。これは起業やプロジェクトなどの創造的な仕事に立ち向かう人たちに「チャンピオンデータ」を紹介することがこれからの活動に対して有益な機会となるからです。

 

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興味のある方は畑中氏の著書である「失敗学の法則(文春文庫)」を一読することをお勧めします。そして同氏の著書の中に「起業と倒産の失敗学」(文春文庫)というのもあるので先の著書と合わせて読んでみてはいかがでしょうか?!

では最後に、お前はどんな失敗をしたのか?ということで掲載された失敗談を転載添付させて頂きます。少し専門的なので関係ないところは読み飛ばして結構です。

 

「鋳造ジャーナル」誌 2018年8月号「私の苦労話・失敗談」から転載

「私の苦労話・失敗談」

1.はじめに

本欄の執筆依頼を受けた時、直ぐに思い浮かんだのは、30年前の北米の鋳造工場での様々な出来事でした。北米での現地生産車の拡大に呼応して、鋳鉄部品の現地生産化のためのプロジェクトが1986年にスタートしました。31歳の時にその前進のプロジェクトから加わり、その仕上げとしてHonda of America  Mfg., Inc. のエンジン工場の鋳造部門に赴任したのが1988年の秋でした。帰任するまでの8年間、鋳造工場の立ち上げから生産、組織・仕組み、技術の基盤づくりに努めました。

その中でもキュポラの水蒸気爆発は最悪の場合人災にもつながる恐ろしいもので、この時は運良く物損だけで済みましたが、その後の私の会社生活で自戒の一つとして忘れられない出来事になりました。

 

2.溶解炉

30年前のキュポラは、炉の底蓋が開閉できるウエット式で、キュポラ2基を交互に1週間の操業で切り替えるのが一般的でした。プロジェクトでは独GHW社製のドライボトムキュポラを採用しました。炉底は耐火材で固められ、炉内で解けた溶湯とスラグはキュポラの外にあるサイフォンと呼ばれる所に溜まり、スラグと溶湯がそこで分離されます。溶湯とスラグが直ぐに炉外に出ることから、炉壁・炉底の耐火材の損傷、減耗は少なく、炉外の2つのサイフォンを一週間ごとに切り替え、補修することで、キュポラ本体は一基で足り、30週以上の長期ランニングを行いました。

 

3.溶解炉での失敗、水蒸気爆発

水蒸気爆発はそのサイフォンで起こりました。ドドーンという大音響の爆発後、鋳造から加工・組み立てまである工場内全体が耐火物の粉塵で真っ暗になり、粉塵が沈降し、明るくなるまで10分以上もかかり、床に耐火材の粉塵が3センチ以上堆積したように思います。それぐらい大きな爆発でした。私は最初何の爆発か理解できないままその現場に飛び出て行きましたが、最初にキュポラの操業担当者をコントロールルームで見た時はホットして腰が抜けたのを覚えています。

その後、水蒸気爆発であったことが分かり、原因とそこに至る経緯が明らかになりました。サイフォンの補修サイクルの延長と耐火材の使用料削減を行うために、サイフォンの水冷化にトライしました。当初アメリカ人スタッフのF君は「水冷パイプを耐火材に直接埋め込む方法が最も効果がある」とその案で進めたいと主張しました。「いくら何でもそれは危険だから止めてくれ」と彼を説得し、サイフォンの外周鉄皮(1/4インチ)を水冷することを奨め、この案で進めました。その結果、費用削減と会社としてパテントを取得したという事で、彼は会社から盾をもらいました。それに気を良くしたF君は「更に効果を上げる」と言って、あろうことかやるなといった耐火材の中に直接水冷パイプを入れ込むことを日本人の上司からOKをもらい、その結果その水冷パイプからの水漏れで水蒸気爆発を誘発したのが事の顛末でした。「効果があるのは分かっているが、安全の事を考えたらそこまでやるやつはいない」と彼に厳しく言いました。さすがに彼もその時は、大爆発の現実を受けて素直に反省していました。しかし一番の問題はアメリカ人に対して「NO」と言えない日本人上司だったのかもしれません。(逆に「NO」と言っては自分の意見を押し付ける困った日本人もいましたが・・)

 

3.異文化コミュニケーション

 振り返ってみると、8年間アメリカ人スタッフと仕事をしていると、日米の考え方の違いによるこのような事例がよくありました。アメリカの鋳造は日本より長い歴史があり、経験も豊富です。それ故、大げさに言えば日本の物造りのやり方とアメリカのやり方との闘いでした。技術への理解の深浅の問題があるので、一般論として言えるかどうかは解りませんが、アメリカ人スタッフは思考がシンプルで目的をどう達成するかの解に集中します。それ故、制約条件の事はあまり考えない彼らの発想は、合理的で目的達成の為には良い案が出ます。制約条件の対応は後から考えれば良いのです。一方の我々は「安全は?品質は?コストは?効率は?・・」と色々と制約を付けることで全体最適の解を求める思考になっており、その結果当たり障りのない方法に帰着したことが多かったようにも思います。当時は私も30代で若く、この水蒸気爆発の事例の様に「アメリカ人は全く分かっていない」と言い合いながら、無我夢中でアメリカ人スタッフと仕事をしていました。今思えば彼らの発想、着想の中から良い案が出ていて、それを見過ごしていたかもしれません。(ただし安全だけは別ですが・・・)

 

4.最後に

日本の企業が世界中に進出し、グローバル化が急速に進んだ現在、日本人と外国人との発想・着想といった考え方の違い、異文化コミュニケーション等が広く認識されるようになりました。30年前はそのような情報や知識が乏しく、アメリカ人スタッフと様々な軋轢や衝突を起こしながら失敗や苦労を経験しました。現在、社会人大学院生達に「プロジェクトマネジメント」の授業を持っていますが、学生達は授業のテキストより私の実際の失敗の話の方を大いに喜んで聞いてくれます。

 

 

髙篠 昭夫(専任教授)

 

次号(No.42)は 水澤 直哉教授 が執筆予定です。

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