MOT 働きながら技術経営が学べる1年制大学院 日本工大MOT

【No.35】伝えることの難しさ

NIT MOT Letter

No.35 / 清水 弘(専任教授) 

 

 昨年度の春学期から、宮代の大学三年生の皆さんを対象に「起業とビジネスプラン」の授業を担当するようになった。日頃MOTで一緒に学んでいる皆さんは社会人であり、その経験からの「起業」や「ビジネスプラン」なども夫々理解されると思う。それに比べると春学期の大学三年生は、秋冬からの就職活動の前で社会人としての活動経験がなく企業とか仕事とかのイメージを持っていない。加えて大半は就職希望で、自ら会社を興す起業には関心が低いだろうし、ビジネスプランの必要性も感じないのではないか。ということで、どうやって「起業」や「ビジネスプラン」を伝えたらよいものか、悩みつつ授業に取り組んだ(まだ継続中だが)。このMOTレターを読まれるであろう社会人の皆さんにとっても、自分自身の仕事に取り組む姿勢の確認とともに、新人・若手に仕事の姿勢を伝えていく上でも参考になるかもしれないので、この場を借りて紹介してみたい。

 

伝え方を考える上で参考になったのは、ティナ・シーリグという米国の大学の先生が自分の起業の授業について書いた「二十歳のときに知っておきたかったこと」という本である。NHKの白熱教室シリーズで放映されていたのでご存知の方も多いかと思うが、この先生の授業では会社の作り方などの講義は殆どなく、起業マインドとでもいうべきビジネスに取り組む姿勢を教えている。例えばチーム演習で「手元の5ドルを2時間以内に出来るだけ増やせ」とか、元手をお金からクリップ、ポストイット、ゴムバンドなどに変え「これらから出来るだけ多くの価値を生み出せ」。といった課題を出し、参加者がチームで課題に取り組むという方法をとっている。チームの課題への取り組みについては、その様子が様々な事例として紹介されている。

 

「二十歳のときに知っておきたかったこと」=起業マインドとでもいうべきビジネスに取り組む姿勢としては、大きく三つのポイントが示されている。

周りを見渡せば解決すべき問題が目に入る。チャンスは無限にある。

われわれは往々にして問題を狭くとらえすぎている。

今ある資源を使ってそれを解決する独創的な方法はつねに存在する。

の順番は変更している。

 

これを通常の仕事を進めることに当てはめて解釈してみると、

一つ目について思い出したのはトヨタの例である。トヨタは問題解決を様々に取り組んでいるが、その大前提に「問題を見つけたら喜べ」という姿勢があると聞く。人に言われて作業するのだけでなく、自分なりのあるべき姿を持って仕事をすると現実とのギャップすなわち問題が生じる。この問題の発見と解決こそがあるべき姿に近づけるための第一歩である。ということだと思う。また逆に問題から目をそらすのではなく、チャンスであるという積極的な姿勢を持って周囲を見渡すと、様々な問題が目に入ってくる。この姿勢を持ち続けられるかが重要なのだと思う。

 

二つ目には良く言われていることだと思う。「ドリルを売るには穴を売れ」という有名な言葉がある、ドリルがなくて困っている人は実は穴が欲しいが空ける方法がなくて困っている。川に橋がなくて困っている人は、ある目的で川向うに行きたいのである。なぜ困っているのか、そもそも何をしたいのかと問題を広くとらえると多くの解決方法が考えられる。

 

三つ目は、ある人の空いた時間、仲間や持ち物といった資源が、視点を変えると別な人にとっては重要な問題解決手段になる。ということだ。日本の昔話のわらしべ長者(一本のわら交換から始まって、立派な屋敷と裕福な生活を手に入れた)のようなことではないかと思った。本の中でもカイル・マクドナルドという人が、普通の赤いクリップを一年間で十二回物々交換して一軒家を手に入れた話が紹介されていた。これも自分のもつ資源が別な人の役に立つということだ。さらに積極的な意味では、何かをやると宣言してそれを始めると、皆がそれを楽しんだり尊敬したりして手伝ってくれる。ということもあるようである。

 

この三つのポイントを活かして「起業」や「ビジネスプラン」について説明してみた。つまり、仕事をする上では様々な問題が生じるが、人に言われて作業するのだけではなく自分が目的を持って仕事を行う(=ビジネス)ことで、これら問題を積極的なチャンスと思うことも出来る。また問題を広く捉えると自分が解決できる様々な解決手段も見えてくる。こういう姿勢で新たなビジネスを行っていく事が広い意味の「起業」であること。また問題の解決は自分だけは解決することが出来ないことが多く、「プラン」として提案し進めることが大切であること。こんなメッセージを伝えることで、秋冬からの就職活動として社会人への一歩を踏み出す大学三年生にも興味を持ってもらえるのはないかと考えた。

 

とはいえこうすれば興味を持ってもらえた。と自信を持ってご紹介できるわけではなく、伝えることの難しさを日々感じつつ試行錯誤を行っている。何かのご参考になれば幸いだ。

 

清水 弘(専任教授)

 

次号(No.36)は 浪江 一公教授が執筆予定です。

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