MOT 働きながら技術経営が学べる1年制大学院 日本工大MOT

【No.52】制約条件を打破する

NIT MOT Letter

No.52 / 水澤 直哉(専任教授) 

  

 

コロナ禍は、今までの前提を一気に覆し、新たな日常の形成を全世界的に求めている。

わが国では「世間」への「同調圧力」が顕在化し、息苦しさを増している。一歩間違うと、恐怖と不安に苛まれ、多くの人々が思考停止状態に陥っているようにも見える。日本には「社会」という意識が希薄で、実体のない「世間」からの仲間外れを恐れ、自らの主張を本音で展開するよりも、「空気を読み」世間の流れに気を使いながら迎合する機運が、あちらこちらで散見される。社会活動という言葉は存在するが、「世間活動」という表現はない。敢えて言えば、「賢く忖度すること」がそれに該当するのだろう。変化・変革の時代、今までにない新たな価値を生み出す機会と捉えれば、今こそ、各個人が主体的にものを考え、活き活きと新たな時代を創る取り組みに邁進する時だと確信する。

思考停止状態や古い価値観に留まっていると、時代の変化に取り残され、自らのポテンシャルを、次代の開闢に活かすことが出来ない。そこで、「制約条件を打破する」取り組みを推奨したい。もちろん、資源の有限性に由来する絶対的制約条件は、明確にし、それを前提に意思決定する事が重要である。しかし、問題は、主観的制約条件を絶対的制約条件だと思い込み、思考や行動を自ら制約し、本来の可能性を活かしきれないところにある。ものをしっかりと考え、発展的に思考を巡らし、自由に発想する為には、「主観的制約条件にブレークスルーを起こす」事が有効だと考える。

 

そこで、次代を拓く変革型経営リーダーの皆様に、主観的制約条件にブレークスルーを起こす三つの視点を以下にご紹介したい。

それは、

1.意味づけを転換する(ポジティブな可能性に目を向ける)

2.暗黙の前提を問い直す(自らの常識が社会の非常識になっていないか点検する)

3.目的の上位に展開する(今の目的を手段ととらえ、更に上位の目的に目を向ける)

の三つの観点である。各内容に関し、その勘所を以下に示すので、是非とも活用して頂ければと願う次第。

 

1. 意味づけを転換する(ポジティブな可能性に目を向ける)

同じ事実でも、「陥りがちな思考」と「可能性の開花」の側面がある。

例:          陥りがちな思考   可能性の開花

①     コップに半分の水:半分しかない、   半分もある。

②     顧客クレーム:  対応面倒      顧客の本音を捉える好機

③     過去に成功例なし:やっても無駄    成功すればマーケットクリエーター

リーダーシップ理論の中でもA leader must see the cup as half full rather than half empty.とよく言われている。これは言葉の遊びをしている訳ではなく、「可能性の開花」の側面があるのに、それを見落としていないか点検する事が大切である事がポイントだ。成果を上げている経営リーダーは、問題を機会に転換するのが上手い。その問題が起こったからこそ、普段出来ないことに手を打つ機会だと発想するのである。

 

2.暗黙の前提を問い直す(自らの常識が社会の非常識になっていないか点検する)

長年の経験則や過去の成功体験に由来する固定的な価値観やものの見方・考え方の事を「暗黙の前提」と呼んでいる。言わば、空気のように当たり前になっている常識と言っても良いだろう。それを疑ったら「元も子もないよ」と言われてしまうような前提である。しかし、外部環境の変化は待ったなし、「業界の常識は顧客の非常識」「過去の成功体験こそが成長の制約条件」となっている状況は顕在化している。「あなた中心に世界は動いてないですよ社長!」と経営者に思わず助言したくなる事もあるくらいだ。漫然と忙しい事を言い訳に、「当面、当面、また当面」、目先の緊急度の高い問題に状況対応していると、何らお互いシナジーを生まない場当たり的な意思決定を日々個別最適的に行い、その結果、職場の中は右往左往の“もぐら叩き”状態に陥る事となる。それが常態化すると、手段の目的化が常となり、本来の目的を見失った中での職務推進となろう。「勘と経験と度胸と勢い」で仕事を回し、意思決定の暗黙の前提が過去の経験則になっている状況からの脱却が求められるケースも多い。Stereotyped images die hard!(既成概念は頑固で中々捨てられない)を前提に、自問自答する姿勢が求められよう。

一つのヒントなのだが、社内で何気なく使っている言葉やスローガンの背後に、その組織固有の暗黙の前提がある事が多い。変革を推進する経営リーダーには、暗黙の前提を常に問い直し、部下に考えさせ、明確化・共有化する事が求められる。そして、その組織で今後も大切にして行く価値観や拘りは何か、変革の時代の下、思い切って変えて行かなければいけない常識や考え方は何か、その論議を組織内で主導するリーダーシップの発揮に大いに期待したい。

過去の事例を紐解いてみると、慣性的判断が「先見の迷惑」になっているケースは正に、枚挙にいとまがない。いくつかを拾ってみると、

 

1)「個人が家庭にComputerを持つ理由など見当たらない」

  1977年AppleがPC領域に進出した時のDEC社長のコメント。

2)「辛口のビールなんて聞いたことがない!」

  スーパードライの開発提案に対する当時の経営会議での役員の反応

3)「利用者にサービスを無料提供し、企業側から広告収入を得る事業モデルなど儲かる訳がないじゃないか!」成功した企業家は誰もが、最初は周囲から「お前気が狂ってる」と言われるのだ。 ヤフー創業者 ジェリー・ヤン氏

 

慣性的判断のリスクや、その背後にある暗黙の前提を問い直し、先見の明を摘むことがないよう変革の時代を拓く経営リーダーには強く求めたい。

 

3.目的を上位に展開する(今の目的を手段と捉え、更に上位の目的に目を向ける)

所謂ナドラーの言う「ブレークスルーの発想」と言って良いだろう。現在の目的を手段だと捉え、一体自分はその次に何を実現したいのか自問自答する思考の癖を身に付ける事が有効だ。目的の次元を高めれば高める程、当然の事乍ら視界・視座は拡がる事は自明の理であろう。職務推進上、迷路に迷い込み先が見えなくなる事もあるが、「迷ったら目的に立ち返る」姿勢が、時として迷いを払拭するものだ。一体全体、この目の前の職務を通じて自分は何を実現したいのか、とまず問いかけである。そして、その次元に留まらず、更に上位の目的に目を向ける事で、近視眼的な職務運営からの脱却に結びつくであろう。 そして、それぞれの仕事が、世の中に貢献し、究極的には社会課題の解決に結びついてる事が、Authenticに本音で感じられれば、仕事のプロとしてのEngagementが本物となろう。志の高い変革型経営リーダーには、常に目的思考を磨き続け、部下の皆さんに熱き志を語りながら、明るい未来を開闢して行って欲しいと願う次第。

 

Think out of the box! 狭い発想に固定化される事無く、制約条件を打破し、新たな価値を生みだして行く躍動感溢れるリーダーシップの発揮に大いに期待している。ダイナミックな飛翔に向け、心から声援を送りたい。

 

水澤 直哉(専任教授)

 

次号(No.53)は 平川 淳 教授 が執筆予定です。

このエントリーをはてなブックマークに追加
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-5 [ 交通アクセス ]【 TEL 】03-3511-7591 /【 FAX 】03-3511-7594
Copyright © 2014 Nippon Institute of Technology, All Rights Reserved.